第一話  出来損ないじゃない

 

「ふわぁ……眠い……」

目が覚める俺は時計を見た。まだ6時47分だ。目覚ましは7時30分に設定してあったので40分以上も早く起きてしまっている。

「まだこんな時間じゃないか。……お休みなさい……うわっ!?」

再び眠りにつこうとしたそのとき、なにやら左手にやわらかい感触がある。まだ意識のしっかりしていない俺の頭では状況が把握できない。が、そんな頭でも振り向いた先にあったもののおかげで完全に覚醒することができた。俺が触れていたものは―――――

「なななな!…なんで俺のベッドで寝ているんだお前は!!」

俺は俺のベッドで、それもすぐ横で寝ている少女を叩き起こした。まだ眠かったようで右手の人差し指で目をこすっている。

「あっ、おはようお兄ちゃん!」

その少女、俺の妹の来夢(らいむ)はまだ眠たそうな顔をしながらも微笑んで俺に朝の挨拶をした。

「あっ、おはようお兄ちゃん!……じゃないだろ、お前が何で俺のベッドで寝ているんだ!!」

俺が怒鳴ると、

「だってたまにはお兄ちゃんと一緒に寝たかったんだもん!」

と即答されてしまった。

「まったく、さくらの影響なのかは知らないが、こんなところを音夢に見られ……」

ガチャッとドアの開く音がした。恐る恐るドアのほうに目をやると、そこには妹の音夢がいた。音夢は固まってこちらのほうを見ていた。

━━━見られてるー!!!━━━

「ちょっ、ちょっとまて音夢、誤解するな、これにはわけが!!!」

俺が誤解を解こうとするのもむなしく、俺が言い訳をするよりも早く、

「に、兄さんの不潔、変態バカーッ!!!」

と叫んで部屋から出て行った。どこからともなく取り出した辞書を俺に向けて投げながら……。そして、投げられた辞書のひとつが俺の顔面に直撃する。

「ぐわふっ!!!」

奇妙な声をあげながら、俺はその場に倒れた。

 

 

「ごめんなさい!!わたし、てっきり兄さんが来夢を襲ったのかと思って……」

「なんで俺が実の妹を襲わなければならないんだよ、ありえないだろ普通」

あれからすぐに着替えて1階に下りてまだ食事をしていた音夢になんとかわけを離すことができて誤解を解くことが出来た。

「あはは、ごめんね〜お兄ちゃん」

来夢も自分のせいでこうなったことに気がついて謝ってきた。謝ればそれで済むというわけでもないのだが……。

「さてと、そろそろ学校に行かなきゃ。兄さんも一緒に行こうよ」

朝食のコンビニ弁当を片付けながら音夢が俺に言ってきた。

「う〜ん……まぁたまにはいいか」

別に音夢と一緒に学校に行くのは嫌いではない。ただ、俺が起きるのが遅いだけなのだ。

「兄さ〜ん、早くしてくださーい!!」

玄関の外で待っている音夢が俺を呼ぶ。横では来夢が家の前を通りかかった猫(?)のうたまると遊んでいる。

「おまたせ、それじゃ行くか!」

玄関のカギを閉め、うたまると別れて学校への道を歩き始めた。俺たちの足取りは軽くかなりいいペースで学校までの道を進んでいった。

「おーい!朝倉ーちょっと待てぇ!!」

俺たちが歩き始めてから数分後、一人の男子生徒が俺たちの後ろから走ってくる。俺はそんな奴にお構いなく歩きつづけた。

「ま……まてって……言って……いる……だろ……!!」

息切れで言葉が途切れ途切れになりながらも俺たちに追いついた。意外に足の早い奴だ。

「朝っぱらから何の用あんだ白坂?」

まだ息の整っていない男子生徒、白坂藤次は息を整えた後、口を開いた。

「何の用って……クラスメートがともに学校へ行こうとして何か悪いのか?」

白坂は用事があったのではなく、いっしょに登校しようとしていただけのようだ。それならそうと早く言えばいいのに……。

それから数分後俺たちは風見学園についた。俺も音夢も来夢も、そして白坂も同じクラスなので教室まで一緒に行った。

「まった、俺が開ける」

俺は戸を開けようとしている来夢をとめて俺の後ろに下げた。そして俺は身構えをして戸を開けた。すると、

「うおぉぉっ!来夢ちゃぁぁんおはよう!!!」

と一人の男子生徒が叫びながら飛びついてくる。俺はその男子生徒の鳩尾に右拳で会心の一撃を放った。

「ぐふっ!!!」

男子生徒はその場に倒れ、

「……お……おはよう……朝倉……朝っぱらからいいのをもらった……ぜ…」

と言い残して口から泡を吹きながら気絶した。

 

 

「ほぉ、また斎藤を保健室送りにしたようだな」

飛びついてきた斎藤がタンカで保健室に運ばれてから数分後、どこからともなく現れた杉並が俺に尋ねてきた。

「あぁ、また斎藤の奴が来夢に抱きつこうとしていたから一発鳩尾にかましてやったよ」

「ふっ、見事なカウンターブローだったな」

「なんだ見てたのか杉並」

「ふはははっ!朝倉よ、お前の事で俺が知らないことなど何一つとして存在しない!!」

杉並は不敵な笑みを浮かべながら言い切った。まったく、一体どこから俺たちを見ているのやら……。

しばらくの間杉並と話をしていてふと思った。今は一体何時だ?

時計を見るとすでに9時を回っていた。本来ならば授業が始まっていているはずの時間帯だ。

「日之影・・・ついに来るのか、奴らが」

「あぁ、まだ気配は感じられないが、もう時間はないな・・・いつ奴らが来たっておかしくはない」

「天枷研究所から連絡があったけど、どうやらここの職員はみんな研究所に集められているらしいよ。だけど、ボク達とは違う普通の人じゃあいつらと戦っても無駄死にするだけだよ!」

「でも、今の私たちだけじゃ戦力不足だし、それに・・・・・・お兄ちゃんはまだ・・・・・・」

つい先ほどまで俺の横にいた杉並がいつのまにか日之影のところに移動している。それにさくらと来夢も。いったい何を話しているんだ?

ダダダダダダッ!!

「おーい、みんなー大変だー!!!」

廊下を走ってきた斎藤と眞子が教室に入るなりいきなり大声で叫んだ。それにしても、斎藤の奴もう復活してやがる。

「何が大変なんだ?」

俺が聞くと斎藤が、

「実はさっき保健室前で眞子と話をしていたら暦先生が来て、今日は1日自習だとみんなに伝えてくれ、って暦先生に頼まれたんだ」

と言った。つまり今日はもう帰っても心配ないってことだな。

「ねぇ、他に暦先生何か言ってなかった?」

日之影の側にいる来夢が斎藤に質問する。それに対して斎藤が、

「そうだな、強いて言えばここの職員が暦先生を除いて眞子の殺人拳で全員病院送りに・・・・・・ぐふぁ!!!」

などと言ったがために斎藤は眞子の殺人拳をまたしても鳩尾にくらって泡を吹きながらその場に倒れこんで気絶した。

「ちっがーう!!暦先生が言ってたのは病院送りになったってことだけでしょうが!!」

と眞子は斎藤を気絶させた後に斎藤に代って言った。どうやら暦先生以外の職員が病院送りになったって言うのは本当らしい。

「日之影君、もう時間が無いよ!!」

来夢が日之影に言った。もう時間が無いってどういうことだ?

来夢の問いに日之影はしばらく沈黙していた。そして、俺の方をちらっと見た後口を開いた。

「・・・・・・分かった、これ以上被害を出すわけにはいかない。さくら、杉並、来夢、あの桜の元へいくぞ。そして朝倉、おまえもついて来い!!」

 

 

俺は日之影たちに連れられてある場所へと向かった。そこは俺にとって約束を交わした場所だった。

「お兄ちゃん、知ってる?この桜の木下で願い事をすると、必ずその願いがかなうっていう話」

さくらが俺に話しかけてきた。俺はさくらの顔を見た。いつもとは違い真剣な顔つきだった。

「あぁ知っているさ。そして、この桜の下で交わした約束は必ず果たされるっていう話も」

「うん、そうだね。この桜の木は特別な力を持っている魔法の桜なんだ。そして、この桜にはあるものが封印してあるんだ」

「あるもの?」

俺は問いかけた。その問いに答えたのは日之影だった。

「そいつはな・・・・・・数十年前に俺と仲間達で倒した魔王の魂だ」

魔王の魂?なんだそれは?と俺は思った。この世に魔法が存在していることは知っている。なぜならば俺は魔法使いだからだ。でも、手から和菓子を出す  ことしか出来ない出来損ないの魔法使い・・・・・・。

「日之影君が魔王と戦ったのっておばあちゃんが十六のときだったらしいね」

なるほど、つまり数十年前に魔王を倒した勇者様御一行の一人が日之影ってことか・・・・・・って、

「ちょっとまった!!日之影が魔王と戦ったとき、ばあちゃんが16って・・・・・・」

俺の疑問に対して日之影は軽く笑って、

「俺は不老だ、実際の年齢は百歳ちょっとだな。そうそう、芳乃さんとは魔王との戦いで共に戦った仲だった」

と答えた。それにしても、まさか日之影が百歳を超える爺さんだったとは・・・・・・。

「・・・・・・一つ言っておくが俺はもう人間ではないから爺さんではないからな」

日之影はまるで俺の心を読んだかのように言った。それはまた俺に一つの疑問を持たせた。

「もう人間じゃないって・・・・・・どういうことだ?」

日之影はどこからどう見ても普通の人間だ。頭の天辺から足の先まで完全な人間である。

その俺の疑問に答えたのは日之影ではなく、別に以外とも思えない杉並だった。

「何を隠そう日之影は別の世界からこの世界を救うためにやって来た騎士だ。騎士とは人間と魔族の血を持つ一族、日之影はその一族最強の騎士だ」

なんだか話がよく分からなくなってきたぞ・・・・・・。別の世界から来たって・・・・・・。

「細かいことは気にしなくていい、それよりも朝倉・・・・・・お前に渡さなければならないものがある」

日之影はそう言いながら俺のすぐ近くまで近寄ってきて、右手を俺の方にかざした。すると日之影の右手がほんのりとした光を発し始めた。

「芳乃さんからの預かりものだ、受け取れ!!」

日之影の手から一瞬光が消えたかと思うと、次の瞬間まばゆいばかりの光を発した。すると突然体から力が抜けて俺は意識を失った。

 

 

「あいたた・・・・・・うぅ、あれ、ここは・・・・・・」

気が付くと俺は見知った家の前に立っていた。その家は俺の住んでいる家の隣にある家、今はさくらが一人で住んでいる家、昔ばあちゃんの住んでいた家だった。

「純一や、入っておいで」

ばあちゃんの家の敷地内から声がした。聞き覚えのある声である。俺は一瞬ためらったが家の敷地内に入り、その声の主の下へゆっくりと歩み寄る。そこで目にしたものは、さくらと同じ髪の色をし、目の色も同じ青色の目をしている少女だった。

「・・・・・・ばあ・・・ちゃん・・・・・・なのか・・・?」

その少女は俺に向かってやさしく微笑んだ。その微笑みは昔、俺が幼かった頃に見たものにそっくりだった。

「久しぶりだね、純一。この姿で会うのは初めてだったね」

「ばあちゃん、ここは一体?」

ばあちゃんは俺が幼かった頃にすでに他界してしまった。だからここにばあちゃんがいるのはおかしい。それにあの姿はまるで・・・・・・。

「驚いただろう、この姿は私が若かった頃の姿だよ。さくらはほんとにわたしと瓜二つだからね。そしてここはあんたの心の中だよ。今ショウがあんたの体の中に魔力を流し込んでいるのさ。その魔力以前私があんたの体の中から抜き取ったものでねぇ、私自身の死期が近づいてきたから友人のショウに代わりに預かっていてもらったのさ。そのときに私の魔力をほんの少しだけ紛れ込ませていたの、だから今あんたと話をすることが出来ているんだよ」

「魔力を抜き取ったって・・・・・・どういうことなんだ?」

俺は出来そこないだ、そんな抜き取られるほどの魔力なんて無い・・・・・・つもりだった。

「純一や、あんたから魔力を抜き取ったのはあんたが生まれて幾日もたたないうちになんだよ。だから、あんたが自分を出来そこないだって思うのは仕方のないことだろうねぇ」

俺はずっと自分は出来損ないなのだと思っていた。まさか、ばあちゃんの手によって出来そこないにされていたなんて・・・・・・。

「なんで・・・・・・俺にそんなことをしたんだ?」

ばあちゃんは少し申し訳なさそうな顔をした。だけどすぎにいつものやさしい顔に戻った。

「それはね、あんたの持っていた魔力がとてつもなく強大だったらなの。幼い体ではその強大な魔力を制御しきれずに暴走してしまう恐れがあったの。その魔力がどれだけ強大だったか・・・・・・今のお前にはわかるでしょう?」

ばあちゃんの言うとおりだ。さっきから気づいていたけど、体の中から力が溢れてくるような感じがずっとしていた。その力は今でもさらに強さを増していっている。

「そろそろお別れの時間のようだねぇ」

 ばあちゃんはほんの少し悲しそうな顔をしていた。俺の目にはもしかしたら涙が浮かんでいたのかもしれない。

「さくらと音夢、そして来夢を守っておやりよ」

 俺はコクリとうなずいた。そして俺はばあちゃんに最後の言葉を言った。

「さようなら、ばあちゃん・・・・・・」

「さようなら、純一」

 最後の会話をおえた後、視界が真っ白になり俺の意識はとんだ。最後に見えたばあちゃんの顔はやさしい微笑でいっぱいだった。

 気がつくと俺は地面に横たわっていた。まわりを見てみるとさくらや来夢、杉並、そして日之影が立っていた。体が少し重く感じられたけど、杉並が手を貸してくれて何とか立つことが出来た。

「ふっ、どうやら魔力注入は無事成功したようだな」

 俺が一人で立てることを確認した杉並が言った。無事成功・・・・・・って失敗する可能性もあったのか?

 とりあえず日之影に聞いてみると、

「実際には失敗する可能性のほうが高かったんだ。本来ならばお前が自分の力で完全な魔法使いになってから渡すつもりだったんだが、もう時間が無かったからな、すまん」

 と答えられた。

「もし失敗していたらどうなっていたんだ?」

「死んでいた」

日之影に即答された。死んでいた・・・・・・ってそんな危険なことをよく本人に何も言わずにやれるな。

「ボクが日之影君と同じ立場だったとしてもおなじことをしたと思うよ」

 さくらは俺の方をほんの少し笑いながら見て言った。さくら・・・・・・まさかお前がそんなことを言うとは思わなかったぞ・・・・・・。

「まぁ気にするな朝倉、それだけお前の力が・・・・・・ん?」

杉並が話の途中で何かに気づいてどこからか取り出した刀を構えた。それと同時に日之影はいつの間に着替えたのか、今朝夢の中で見た服装に着替えていて、腰に下げた剣を鞘から抜き取って構えている。さくらはそのままの状態で身構えている。来夢だけはほんの少し体が震えていたけど身構えている。そして、俺も身構えていた。俺も感じることが出来たのだ。おそらく、日之影の言う魔族という奴の魔力を・・・・・・。

「隠れていないで出てこい、魔族ッ!」

 日之影が叫んだ。すると、景色が歪んで俺たちの前方に見たこともない生き物が現れた。数は、やや人型のやつが一体と動物型のやつが十数体。どちらの方も俺からすれば化け物だった。

「なるほど、職員を襲ったのは魔物だったのか・・・・・・どおりで魔力が感じられなかったわけだ」

 日之影は冷静に言った。魔王と戦ったってのは本当らしいな、場慣れしている。

 日之影の言ったことに答えるようにして魔族と思われるやや人型の化け物が口を開いた。

「魔力に頼っているようだな、ショウよ。この世界に来るために80%以上の力を失ったという噂は本当だったようだな」

「だからどうかしたか?お前ら如き、10%もあれば十分だ!!」

「ちょっといいか、日之影?」

今にも敵の下へと突っ込んでいきそうな勢いの日之影を俺は呼び止めた。

「俺が今朝見た夢のことなんだけど、その夢にはお前とさくらが出ていたんだ。そして、その夢は俺自身が見ていた夢ではない」

 日之影とさくらは少し驚いた顔をした。二人は一瞬顔を見合わせた後、俺の方を向いた。

「覚えていてくれたんだねお兄ちゃん!」

「俺はてっきり覚えていないのだろうと思っていた・・・・・・」

 さくらは喜び、日之影は意外といった感じの言葉を俺に言った。俺には夢のことで一つ聞きたいことがあった。

「さくら、お前は夢で俺に世界を救えるのは俺だけだって言ったよな?世界を救うってのは魔族を倒すことだとして、俺にしか出来ないことなのか?さっきの話だと日之影でも世界を救えそうなんだが・・・・・・」

 俺の問いにさくらはほんの少しだけ考え込んだ。そして、

「それはいつか分かることだよ、今は教えることは出来ない・・・・・・」

 と答えた。いつか分かること・・・・・・か。なら、今やるべきことは一つ、

「音夢を、さくらを、そして来夢を守るっていうばあちゃんとの約束もあるしな。約束を守るためにも戦ってやる、かったるいけどな!」

 俺はそういって魔族の方を向いて構えなおした。でも、魔法ってどうやって使うんだ?

「話はついたようだな、さあ・・・・・・死んでもらおうか!!」

 魔族が言い終わるのを合図にして魔物が俺たちに向かってきた。それと同時に日之影と杉並は魔物の元へと走りだし、さくらと来夢は魔法の詠唱を始めた。そして、さくらが魔法を解き放つ。

「サンダーアロー!!」

 さくらの前に出現した雷の矢は魔物に向かって飛んでいき、熊のような姿をした魔物の体を貫く。その直後、魔物の体に高圧電流が流れ、その魔物は黒焦げになった。

「ふっ、さすがは芳乃さんの孫だ、文句のつけようのない攻撃だ」

 日之影がさくらをほめる。日之影がさくらをほめたことに来夢が少しむっとした。

「わたしだって孫だもん、フリージングアロー!!」

 さくらのときと同じく来夢の前に今度は氷の矢が出現した。その矢は魔物に向かって飛んでいき、ライオンのような魔物の体を貫いた。そして、魔物の体を一瞬で凍りつかせた。さくらも来夢もすごい魔力を持っている。

「芳乃嬢も朝倉来夢もやるではないか、われらも負けて入られんな朝倉よ!!」

 杉並はなんだか楽しそうに言っている。この状況を楽しむことが出来るのはおそらくあいつぐらいのものだ。

 さくらと来夢は再び魔法の詠唱を始めていた。そして日之影と杉並も魔物と戦い始めた。杉並は一刀でライオン型の魔物を縦に斬り裂いた。そして刀を反して反しの刀ですぐ横にいた魔物を横向きに斬り裂き、胴体真っ二つにした。斬られた魔物のの体からは人間と同じ赤い色をした血が噴水のごとく飛び散った。杉並の刀からは魔物の血が垂れ流れていた。

別のところでは日之影も杉並と同じように魔門を真っ二つに斬り裂いていっていた。だが、日之影は剣で斬り裂くだけではなく、剣を握っていない左手を握り締め、その拳に力を込めて魔物に突きを繰り出している。突きを食らった魔物の体は拳圧で粉々になって吹き飛び、血飛沫が空中を舞った。

はっきり言ってグロい、だけど、これが本当の戦い・・・・・・。

俺はさっきからずっと解説をしているが、俺だっていつまでも解説をしているわけではない。俺は魔族に向けて考えに考えた魔法を解き放つ。

「くらえっ!フリージングサンダーブレイズメテオストライクッ!!!」

 上空から氷と雷と炎の隕石が魔族にむかって降り注ぐ。・・・・・・と思ったのだが・・・・・・。

「あれ、何も起きない?」

 隕石が落ちてくるどころか小石一つ落ちてこなかった。あたりにいた日之影やさくらに来夢、そして魔族すらもあきれていた。

「なんだその魔法は・・・・・・?」

 杉並だけが冷静に俺に尋ねてきた。何か悪いことでもあったのか?

「今自分で考えた魔法だよ、でもやっぱり失敗しちまったな」

 俺がそう杉並に答えると日之影が、

「あたりまえだ、このバカッ!!!いいか、よく聞け。魔法ってのはそう簡単に作り出すことは出来ないんだ。さっきさくら達が使ったサンダーアローとフリーズアローだって数百年も昔に先代の魔法使い達が生み出した魔法だ。そして一つの魔法をイメージして作り出すのにたとえ天才だとしても数週間はかかるんだ。それくらい教わっただろ!!!」

と激怒した。はっきり言ってそんなことを言われても正直困る。なぜならば俺は・・・・・・。

「・・・・・・俺はばあちゃんからは手から和菓子を出す魔法しか教わってないんだ」

 日之影は言葉を失った。実際に俺はばあちゃんからはそれしか教わっていない。教わる必要も無いと思っていたから教わろうともしなかった。

「・・・・・・ほ、本当・・・・・・なのか・・・?」

「本当だ、ウソを言っても仕方がないだろ?」

 日之影は完全に言葉を失った。おそらくさくらや来夢の魔法を見て俺も知識はあるだろうと思ったのだろう・

「・・・・・・仕方ない、朝倉、お前は後ろのほうで見ていろ!」

 日之影はそう言って戦場に戻った。下がれと言われてもそう簡単にはいきそうにもないな。

 俺に向けて魔族が氷の球を飛ばしてくる。俺はそれをしゃがんだり横に跳んだりしたりしながら避ける。助けを呼ぼうにも日之影たちは次から次へと出てくる魔物に手を焼いているので助けてもらえそうになかった。

 俺は魔族の攻撃を紙一重で避けているうちに道に出てしまっていた。そしてそこにあろうことか帰宅中、寄り道をしているのだろう音夢が通りかかった。

「あれ、兄さんどうしてこんな所に?」

 音夢が俺の方に近寄ってきた。今俺の方に来られてはまずい。今の俺では自分のことで精一杯だった。

「来るなー!!」

「えっ!?」

 俺は音夢を呼び止めようとしたが逆に俺のことを心配したのか、俺の方に歩み寄る速度を速める。そしてそこへ魔族が現れ、音夢は魔族を見て声にならない悲鳴をあげた。

「な・・・・・・なんなの・・・こいつ・・・?」

 音夢は足が震えてしまっていて動けなくなった。そんな音夢に魔族が気づく。

「ちっ、見られたか。仕方ない、お前から先に始末してやる!!」

 魔族の掌に魔力が集束し、その魔力は赤い光を放つ球の形をとる。そして魔族はそれを音夢に向けて放つ。音夢は足が動かない。

「きゃあぁっ!!!」

球は音夢に直撃した。音夢の体はその衝撃に耐え切れず吹き飛ばされ、近くにあった木に衝突した。

「音夢ーーっ!!!!」

 俺は何も考えず、反射的に、すぐさま音夢の元へと走る。そこで目にしたものは、血を流し、横たわっている妹、音夢の姿だった。息はかすかにあるが、意識はなかった。

「音夢っしっかりするんだ!!頼むから目を開けてくれっ!!!!」

 俺は音夢の体を揺さぶった。だけど、音夢は少しも目を開けない。

「どうやら恋人か何かだったようだな。安心しろ、お前もすぐに後を追わせてやる」

 魔族は掌に再び魔力を集束しはじめる。それと同時に、俺の脳裏に幼い頃の記憶が翔け巡る。

『お母さん・・・お父さん・・・えぐっ!』

 幼い俺の隣で泣いているのは幼い頃の音夢だ。音夢は幼い頃に事故で両親を亡くして、身寄りのなかったあいつは俺の両親に引き取られることになった。

 これは音夢が家に来て初めての夜の記憶だ。あいつはずっと泣いていた。あいつはどことなく居心地が悪そうだった。

(・・・・・・そうだ、あの時、俺は言ったんだ。そして・・・・・・約束したんだ!!)

『・・・いつまでも泣くな、俺の御飯を半分分けてやる、おもちゃも半分分けてやる、布団も半分、ベッドも半分分けてやる。そして、お父さん、お母さんも、半分お前に分けてやる。悲しいことがあったら俺に言ってこい、慰めてやる。虐められたら、そいつをぶん殴ってやる。お前は今日から俺の妹だ、絶対に俺が守ってやる。だから・・・・・・もう泣くな、いいな?』

 俺らしい不器用な言い方だった。だけど、あのときの音夢荷はそれで十分だった。

『うん!』

 そう、約束したんだ。約束・・・したのに・・・。許さない・・・俺はあいつを許さない!

「俺はお前を・・・・・・倒す!!」

 魔族の掌に赤く光る球が出現した。そしてその球は俺に向かって放たれる。

「こんなものっ!!」

 俺は右手を前にかざした。すると俺の体が緑色の光に包まれた。球はその光に弾かれて魔族のほうに飛んでいき、魔族に直撃した。

「かはっ!!・・・・・・ば、ばかな!?」

 光球を弾かれて驚く魔族、俺も驚いた。突然魔法が使えるようになるなんて・・・。それも無意識に・・・・・・。

「これなら・・・いける!とどめだ、うおぉぉぉぉっ!!!」

俺は掌を天にかざし、そして勢いよく振り下ろした。すると、

ズドーンッ!!

 天空から一筋の閃光とともに落雷が魔族を襲う。その落雷は魔族ごとあたり一面を焼き払った。

「ぐわぁぁぁぁっ!!!」

 辺り一面に魔族の断末魔の叫びが響き渡る。そして魔族はもがき苦しみながら塵一つ残さず消滅した。

「今のはサンダーフレイム!?」

 その直後、後ろのほうから声がした。振り返って見るとそこには日之影たちがいた。日之影たちは急いで俺の元へと駆け寄ってきた。

「魔法使いとして目覚めたばかりのお兄ちゃんが何で高位魔法を・・・」

 さくらが不思議そうにそう呟いた。来夢も驚きを隠せない。俺自身も本当に驚いている、なぜ俺がいわゆる攻撃魔法というものを使うことが出来たのだろうか。

―――そ、そうだ!日之影、大変なんだ音夢がッ!!」

日之影や杉並を含めたそこにいる全員が沈黙している中、俺ははっとして横たわっている音夢のことを思い出し、音夢の元へと走り出した。その俺の後ろに日之影たちが続く。

「これは・・・ひどい傷だな・・・」

 血を流しながら横たわっている音夢を見て杉並が呟いた。さくらと来夢は言葉を失って沈黙する。その中、日之影だけは冷静に音夢にまだ息があることを確認していた。

「大丈夫だ、まだ生きている。これなら回復魔法で・・・・・・リヘイルッ!!」

 日之影は音夢のそばに腰を下ろし、音夢に手をかざして魔法を唱えた。すると音夢の傷がみるみるうちに治っていく。傷だけでなく、副やまわりに飛び散っていた血も完全に消えていた。そして、音夢が目を覚ました。

「あれ?わたし、たしか変な生き物に襲われて・・・・・・思い出せない・・・」

「ふぅ、魔族も倒すことが出来たし、とりあえず一件落着だな」

「よかった、お姉ちゃんが死ななくて・・・!」

「朝倉音夢よ、どこか痛むところはないか?」

「心配したよ音夢ちゃん!」

「音夢!!」

 俺は音夢を抱きしめた。もう一度誓う、俺は音夢を守る。たとえどんなことがあっても。

「ちょ、ちょっと兄さん?!」

 音夢はみんなの前で抱きしめられて恥ずかしそうに頬を赤らめた。俺はそんな音夢にお構いなしに抱きしめ続けた。・・・・・・本当に・・・・・・、

「音夢、お前が生きていてくれてよかった・・・・・・!!」

 

 

 

 

こうして、俺達の戦いは幕を開けた。正直、俺が世界を救えるなんて思えない。だけど、これだけは言える事がある。たとえどんな敵が来ようと音夢を、さくらを、そして来夢を絶対に守ってみせる。

 

 それが、ばあちゃんとの、そして自分自身との約束だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

          次回予告 (純一)

 

 俺は魔族との戦いで目覚め、魔族を倒すことが出来た。魔族との戦いの後、杉並とさくらは天枷研究所へ、来夢は音夢を連れて家へと向かった。

 そして俺と日之影は風見学園に戻ったが、そこで俺達の前に現れたのは・・・・・・。

               次回

     洗脳師、純一対眞子

眞子を洗脳から解き放て、閃烈斬!!