「これは酷いな・・・・・・」

 無残にも粉々になって原形を留めていない噴水や黒焦げになっている桜の木のある広場に着いた日之影はその景色を見るなりそう感想を述べた。

「ここまで周りに被害が出ているとなると戦った二人の力が均衡していたことになるんだが・・・」

 もし朝倉たちが一方的に攻撃を受けたのであれば周りに被害が出る前にヴェイドなら片をつけるだろう。しかし、現状を見る限りは一方的な戦闘ではなかったと思われた。それはつまり朝倉が何かしらの『能力』に目覚めた、もしくは秘められた魔力を開放できたかのどちらかである。もしくは、誰かが加勢をしに来たということも考えられるが、さくらは天枷研究所で情報整理、来夢は音夢と自宅で待機、先ほどまで日之影と共にアリスと戦っていた杉並と白坂は当然消耗している(杉並はそうでもないのだが)からそれはありえなかった。

 日之影はとりあえず先に発見した萌を無事だったベンチに寝かせ、この場にいない朝倉と美春を探し出すべく魔力を感じ取るために精神を集中させる。ここの辿り着くまでは朝倉と思われる魔力とヴェイドの魔力を簡単に感じ取ることができたが、今ではその両方が感じ取れなくなっていた。ヴェイドがそう簡単に倒されるとは思えないため撤退したのだろうと日之影は思った。

 精神を集中させること数十秒、日之影はようやく二人の魔力を感じ取ってそちらのほうへと移動を開始した。美春に魔力があるのかどうかと言われると微量だがある。そもそも人間には誰しも微量の魔力がある。それが魔法としての発現に至る量であるかどうかが一般人と魔法使いの差であり、ある程度近くに居れば一般人の魔力量でも感じ取ることができるのだ。アリスの場合は距離があまりにも離れていたために確認することができなかったのである。

「まぁ分かってはいたが・・・酷くやられているな」

 日之影は先に発見した人物、美春の受けている傷を見るなりすぐに治療の魔法である『リヘイル』を唱えた。発現した治療の力によって美春の傷は徐々に治っていく。そこで日之影はあることに気づいた。

「すでに応急処置の治療魔法がかけられている?」

 美春の傷の治りが遅いことに気づいた日之影はそれがすでに別の治療魔法をかけられている状態だからであることにも気づいた。治療系の魔法は重ねがけしたり種類の異なる複数の魔法を一度にかけたりすると、最初にかけられた魔法の効果が優先されそれ以降の魔法は効果が薄れる特性があった。それが今の美春の状態である。

「加勢にこれる魔法使いはどう考えてもいない。となるとやはり朝倉なのか?」

 美春の治療が終わった日之影は美春をその場に寝かせると次の目的地へと足を運んだ。目的地は残る一人の人物である朝倉の居場所である。

 朝倉の魔力は美春のいた場所から100メートルないし50メートル以上離れているところから感じられた。おそらく美春が巻き添えを食わないように移動したのだろうがそれだけの実力を朝倉が持っていたかといえばそうでない。朝倉は今日初めて生死を賭けた戦いを経験したばかりである。眞子との戦いにおいても眞子が意識を取り戻さなかったら間違いなく殺されていた。

 そんな朝倉のいるところに辿り着いた日之影は朝倉のその状態を見て何が起きたのかを確信するに至った。当の朝倉は地面が削れて大きく穴のあいた地面に横たわっていた。その右手に一振りの刀を手にした状態で。

「なるほど・・・な、目覚めたのは『命』系の能力というわけか。これならヴェイドも撤退するしかないだろうな」

 日之影は朝倉の傍まで歩み寄ると朝倉の手にしている刀を手にした。するとその刀は一瞬にして光の粒子となって跡形もなく消えてなくなった。

「用が済んだら還してやれよ、まぁ見た感じキレて能力が発現したようだから仕方ないけどな。本人にもこの能力のことは黙っておくか、まだ朝倉には早い」

 そう言って日之影は朝倉に治療魔法をかけて美春のところまで担いで歩いていくのであった

 

 

           第五話

       強襲、爆炎のヴェイド

 

―――時は日之影たちがアリスの探索をしていた頃まで遡る―――

 

 萌先輩を気絶させることに呆気無く成功した俺と美春は先輩を連れてその場から立ち去ろうとしていたが、突然『魔族』の魔力感じて咄嗟に美春に伏せるように指示して自らも先輩を庇うようにしてその場に伏せた。

 直後耳を裂くような爆裂音が辺りに鳴り響き、顔を上げると近くにあった噴水が粉々に砕け散っていたのだった。

 俺はすかさず生理的な防御の構えをとって魔族の出現に備えた。美春も俺に遅れながらも防御の姿勢をとる。

「ちっ、はずれかよ」

 爆発による砂煙が収まり少しずつ視界がはっきりとしてきた中、俺たちの目の前には今朝見たような魔族とは違う、どちらかといえば夢で見た日之影のような格好をした炎のように燃え盛りそうな赤い髪、紅い目をした青年が立っていた。もちろん人間なんかじゃない、完全な魔族だ。

「所有している魔力量は並の魔法使いとは桁違いのようだが・・・なるほど、お前がラクフェスからの報告にあった初心者魔法使いか。聞いているぞ?感情が高ぶらなければろくに魔法も紡げない出来損ないの魔法使いだとな」

 ギリッと俺は歯を噛みしめた。奴の言う通り、俺はキレるか何かしない限り魔法は使えないらしい。眞子と戦っていたときも結局発動しなかった。

「まぁでも奴の部下の下級魔族を倒したことは誉めておこうか。出来損ないにしてはやるじゃないか」

「そりゃどうも・・・」

 俺は適当に相槌を打った。しかしどうしたものかな、このままじゃ間違いなく『殺される』な。

「朝倉先輩・・・美春のためにも時間を稼いでください」

「何か策があるのか?」

「そんなのあるわけないじゃないですか、ただここで死んでしまうとバナナが食べられなくなってしまうので」

「ってうぉい!!」

 俺は美春の頭に渾身の力を込めてチョップを放った。美春はそれはそれは大げさな位に痛そうに直撃部分を手で擦っている。

「あーなんだ、お前等魔法使いじゃなくて漫才師か?」

「気にしないでくれ、確かに美春は魔法使いじゃないが俺たちは決して漫才師ではないと断言しておこう」

 俺たちの明らかに漫才紛いの行動をしておきながらそれを否定した。まぁ実際漫才師ではないので問題はないだろ?というかなんで魔族が漫才師なんて職業を知ってるんだ?もしかして魔族ってのを俺はかなり誤解しているのだろうか?

「まぁなんだ、漫才師だろうが菓子職人だろうが教師だろうが魔法使いだろうが関係ない、俺を前にした以上生きて帰れると思うなよ?」

「いや、ここはあえて二人とも生きて帰れること信じていると断言しておくか。いろいろと事情があってどんな魔族がきたって負けるわけにはいかないんだよなぁ」

「だよなぁ・・・って、やる気あんのか?」

「うむ、十分ありますよ?ただ勝てるわけのない相手に負けないのはものすごく大変な気がしてるだけですよ」

「いっていることが無茶苦茶だぞお前」

「だから気にしないでください」

「・・・・・・」

 俺ってすごいな、魔族を相手に自分のペースに持ち込めているんだ。やっぱり杉並なんかと一緒に行動していると普通の人間よりもこういうことに長けているのだろうか?

「まぁそんなことはどうでもいいとして今だ美春!!」

「はい!バナナの力は偉大なのですよー!!!」

 俺が魔族の青年(?)の気を引いているうちに美春は萌先輩との戦いに備えて装備しておいた指装着型超小型バナナミサイルを奴にぶっ放し、さらに腰に装着していたバナナミサイルポットから大量のバナナミサイルを、さらにはどこからともなく取り出したバナナカッターと呼ばれる見た目そのものを名前にしたようなカッターナイフを合計8本投げつけた。ミサイルの爆発によって再び砂煙が巻き起こり、魔族の姿を覆い尽くした。

「みましたか?これがバナナの力なのです!!」

「いやーすごい破壊力だな、これぞまさに科学の力ってやつか?」

 俺と美春、それぞれが勝ち誇った声をあげる。別にこれで魔族が倒せれば苦労はしないんだけど、少しくらいはダメージを与えられていてもいいんじゃないか?

 だが、そんな俺の考えも虚しく『それ』は発動された。

「爆ぜろ!!」

 砂煙の中魔族の声が発せられた直後、美春の左腕のあたりで小規模の爆発が起きた。美春は声にならない悲鳴をあげてその場にうずくまる。爆発によって美春の右腕からは血が止め処なく滴り落ちていた。

「そういえばまだ俺の名前を言ってなかったな。まぁお前等の名前も聞いていないんだが・・・俺の名はヴェイド、通称爆炎のヴェイドだ」

 俺は美春の怪我を気にかけながら魔族の言葉をただ無言で聞いていた。

「俺の属性は火、能力はあらゆる空間を『爆ぜる』ことだ。つまり、この周辺一帯すべて俺の攻撃範囲ということになる。ちなみにさっきのお前等の攻撃だが、爆発を扱う俺に爆発が効くと思うか?刃物のほうはご覧の通り・・・」

 そういってヴェイドは砂煙が収まり徐々に視界が晴れていく中、右手に握っている剣を腰に下げてある鞘に収め、地面に転がっているバナナカッターをひとつこちらに蹴り飛ばした。

「さぁ、これでもまだ『負けない』のか?」

 何も言い返すことができなかった。今の俺にあったのはただ殺されることへの恐怖である。間違いなく俺も美春もこのままでは殺されてしまう。

「バ・・・バナナの力は!!」

「なっ?!おい、美春ッ!!」

 美春は自由のきかない左腕をそのままにして右手で腰にしてあったライトセイバーもといバナナのような形をした柄のバナナセイバーを抜き取り、光の粒子(おそらく魔力を応用したもの)を発生させてヴェイドに斬りかかった。

「素人にしては太刀筋はいいほうだが、俺を相手にするにはあまりにも物足りないな」

 ヴェイドは鞘から剣を抜き取り右手で構えるとバナナセイバーをいとも簡単に受け流してしまった。そしてそのまま空いた左手で美春の首を掴み数メートル遠くへ投げ捨て「爆ぜろ」のセリフと共に能力を発動させ美春の周辺で数回小規模な爆発を巻き起こした。

「美春ッ!!」

 俺は萌先輩をその場に寝かせたまま美春の下へと駆け寄った。美春は茂みの中で横たわり着ていた服はボロボロになっていて体中から血を流していた。このままでは間違いなく・・・死ぬ!!

「おっと、やはり『エアーボム』程度では死にきれなかったか。まぁたかが人間一匹の死に方などに興味はないが・・・」

「なんだと?!」

 ヴェイドの言ったその言葉に俺の中で何かが切れかけている。人間『一匹』・・・だと?

「聞こえなかったのか?仕方ない、もう一度だけ言ってやろう。たかが人間一匹死んだところで虫が一匹死ぬのと変わりなどあるまい、そんなものの死に方になど興味はない」

「虫と変わりがない・・・だと・・・死に興味などない・・・だと?」

「あぁそうさ、俺たち魔族からすればお前等なんて虫けら同然だ、生きていたところで何の利益もない、まさに害虫そのものだ」

 その一言が決めてとなり、俺の中で切れかけていたものが完全にキレた。俺の意識はどんどん遠くなっていく中、俺は奴に言う。

「あぁ・・・そうかい・・・なら言わせてもらおうじゃないか・・・・・・俺たちにとっても・・・貴様らは虫けらどころか害虫以下だ!!」

「ん?」

「人間を・・・命を・・・なんだと思ってるんだッ!!!」

 そう叫んだ後、俺の意識は完全に吹っ飛んだ。

 

 

 

 初音島のとある桜並木にある広場で二人の男が対峙していた。

 一人は風見学園の黒に近い濃紺の学生服に身を包んでいて手には何ももっていない黒髪の青年。

 もう一人は明らかにこの世界とは別の世界から来たような服装をし、その燃え盛る炎のような赤い髪、紅い瞳が特徴の青年剣士。

 二人は互いに殺気を辺り一面に発しながら対峙していたのだった。

「てめぇが魔族だってことがよぉくわかった。美春をこんな姿にしやがって・・・」

 黒髪の青年、朝倉純一は傍で血を流して横たわっている少女の天枷美春を背にし、紅い瞳の青年、魔族のヴェイドに対して怒りを込めて言った。

「もう一度地獄にいって来たらどうだ?ヴェイドッ!!!」

 朝倉は右手に魔力を集中させ始めた。魔力の収束を感じたヴェイドはまだ相手を見くびっている感じでそのままの姿勢でそれを見届けている。

「はっ!行動を止めようともしないのかよ、後悔してもしらねぇぞ!!」

「たかが『出来損ない』のすることだ。魔力量が多くても扱えなくては意味はない」

「・・・じゃああの世へ逝け・・・」

 朝倉の手に収束していた魔力がその姿を徐々に変えていき、一振りの刀を形成した。その刀は見るものを虜にしてしまいそうなくらいに鮮やかな華に彩られた文様だった。

「いくぞ・・・華剣・百花繚乱!!」

「百花繚乱?」

 ヴェイドはその刀の名前に聞き覚えがあるようなリアクションを取り、一瞬完全に無防備になる。朝倉はそれを見逃さなかった。

 朝倉の姿が一瞬ぼやけた直後、ヴェイドの後ろに回りこんで刀を縦から振り下ろした。それに気づいたヴェイドは紙一重でその攻撃を跳躍で躱し空中に逃げる。だが、

「なにっ?!」

 紙一重とはいえ完全に無傷で躱したはずのヴェイドの体に無数の裂傷が走った。傷はそれほど深いものではないが明らかにヴェイドはダメージを受けていた。

「その刀は・・・百花繚乱・・・まさか?!!」

 朝倉の手にしている刀の正体に気づいたヴェイドは驚愕の声を漏らした。

「落ちたものだな、以前のあんたなら『瞬動』程度じゃ後ろに回りこめなかっただろうに」

「ちっ、なるほどな・・・だから『出来損ない』なわけだ」

 ヴァイドは体中に広がる無数の裂傷を見渡しながら言った。そしてヴェイドはこう続けた。

「だがこの程度の傷じゃ意味はないぞ?」

 途端ヴェイドの体中に走っていた無数の裂傷が徐々に塞がっていく。魔族特有の自己再生能力はある程度の傷までは簡単に再生させてしまうのだ。

「誰も今の一撃で倒すつもりなんてない、美春を治療する時間がほしかっただけだ」

 そう言った朝倉は美春の傍まで『瞬動』で移動して、

「癒せ、ヘイル」

 無詠唱で簡易治療の魔法『ヘイル』を発動させた。この魔法はこの世界とは別の世界、日之影のいた世界の魔法であり、彼が音夢に使用した『リヘイル』の劣化バージョンの魔法である。治療系の魔法に関しては彼らの世界の魔法の方が進んでいるのである。

 それよりもなぜ朝倉が『それ』を使えるのだろうか。朝倉はこちらの正統な魔法使いの血を引いた人間であり、向こうの世界の魔法は、それどころか存在すらも知らなかったはずである。そのはずの魔法を使えた理由、それをわかっている人物は険しい表情をしてそれを見届けていた。

「ラクフェスの奴ももう少しちゃんと調査しておいてくれよ、まさかこんな隠し球がいるなんてよ」

「覚悟は決まったか?」

 美春の治療を終えた朝倉がヴェイドに問い掛ける。それに対してヴェイドは「覚悟も何も初めからお前を殺すと言っているだろ?」と答えた。

「そうか・・・なら手加減はしねぇ!!」

「その『能力』でその刀・・・にしては口調がおかしいが・・・まぁいいか」

 ヴェイドは手にしている剣を朝倉に向けて構えなおし、朝倉も手にしている刀をヴェイドに向けて静止させる。

「リハビリには丁度いいか、いくぜエクスプロードッ!!」

 先に動いたのは手にしている爆炎の魔剣『エクスプロード』の名を叫んだヴェイドだった。ヴェイドは朝倉との距離を一気に詰めて上段から一気に剣を振り下ろす。朝倉は応戦して刀を下段から振り上げた。そして剣と刀が衝突した瞬間、爆発が起きた。

 ヴェイドは爆発の瞬間後ろに跳躍して再び剣を構えなおす。次に左手を爆心地のほうに向け親指と中指を合わせて「爆ぜろ」の声と同時にパチンッと指を弾いた。直後まだ砂煙に覆われている爆心地で『エアーボム』の数倍の規模の爆発が指を弾く度に巻き起こる。

 十を越えるほどの爆発を引き起こした後ヴェイドはその場から空中に跳躍した。それから一秒もせずしてヴェイドのいた場所に朝倉が出現した。

 爆発の瞬間『ガードオブネイチャー』ですべての爆発を凌いだ朝倉は最後の爆発が起きた直後に『瞬動』でヴェイドとの距離を詰めながら斬りかかったがヴェイドは直前に空中に逃げて難を逃れた。

「さすがに同じ手は食わないっての!!」

 ヴェイドは空中から落下しながら剣を構えなおして地面に叩きつけるように朝倉に向けて振り下ろした。朝倉は今度は剣で受けようとはせず横に飛びのいて躱して爆発の起きた地点に向けて剣を振った。振られた剣先から無数の見えない真空の刃がヴェイドに襲い掛かる。

「ちっ!!」

 ヴェイドは慌ててその場から逃げ出したが間に合わず体中に無数の切傷が刻まれる。だがそれほど深い傷ではなかったためそれはすぐに再生能力によって塞がってしまった。

「俺を『殺す』なら一撃必殺でこないと厳しいぞ?」

「そう焦るな、あんたの再生能力だって無限に続くわけじゃないだろ?」

「よくわかってるじゃないか『夢見の魔法使い』さんよ」

「・・・なんのことだ?」

「ま、大方本人の意識はないんだろ?」

「・・・・・・」

「『魔を継ぐ騎士』・・・ショウと戦う前にまさかあんたと戦うことになるなんて思ってもみなかったぜ?だが残念だったな、依り代となっている体が所詮一般人レベルじゃ本気が出せるわけないよな・・・あぁそうか、元々そんな『能力』じゃなかったな。無理矢理ってのも影響しているんだろうな」

「何を言っているのかわからないんだが・・・俺は朝倉純一だ、それ以外の何者でもない」

「そういうことにしておいてやるか、口調もおかしいしな。・・・それじゃあ第三ラウンドといこうか!!」

 先に動いたのはまたしてもヴェイド、剣を地面に突き立てて「爆ぜろ」と叫んだ。すると朝倉を中心として半径メートルほどの範囲で中規模な爆発が断続的に起きた。これはヴェイド自身の空間を爆発させる能力と剣自身に備わっている爆発の能力を合わせたヴェイドの奥義の一つである。ヴェイド自身も他の四天王と同じく魔王の封印と同時に力を奪われており威力こそ以前のそれとは比べ物にならないくらい低くなっているが、並の魔法使いなら即死するだろう。

「『エリアボム』は広範囲爆裂魔法だ、いくらお前でもただでは」

「あまい」

 勝ち誇った表情で立ち尽くしていたヴェイドの目の前に爆煙の中から何時の間にか移動していた朝倉は右掌底をヴェイドの腹に打ち込んで数十メートル弾き飛ばした。そしてさらに両手にそれぞれ別種の魔力を収束させてそれぞれ光り輝く弓と矢を構成させた。そしてその矢を弓につがえて光の弦を限界まで張って放つ。

「滅亡の破魔矢(デモン・スレイブ)」

放たれた矢はまっすぐヴェイドに向かって飛んでいく。ヴェイドは自分に向かって飛んでくる光の矢を剣の腹で受け止めたが勢いは止まらずそのまま矢とともにさらに数十メートル飛ばされた。

「これだけ離れれば萌や美春には被害は出ないはず・・・焼き尽くせ、サンダーフレイムッ!!」

 朝倉は右手を頭上に掲げてそして魔法の名を叫ぶとともに振り下ろした。ヴェイドが飛ばされたところに天空から一条の雷が落ち、その周辺一帯を炎が焼き払った。今朝の『サンダーフレイム』とは桁違いの破壊力である。

 次に朝倉は一旦後ろに退いて地面に落ちている『百花繚乱』を拾い上げてヴェイドのいる地点まで『瞬動』を数回に分けて移動した。『瞬動』の移動可能範囲は7メートルほどでそれ以上は一度止まってから再び使用しなければならない。

「くあぁ・・・くぅ・・・やるじゃないか・・・それでこそショウに認められた魔法使いだ」

「倒せるなんて思ってはいなかったけど、思ったより効いていないみたいだな」

 朝倉がヴェイドの元に辿り着いたとき、ヴェイドは既に傷をある程度再生させていた。そして朝倉が着いたのを確認するとあれだけの攻撃をその身に受けていて傷一つない魔剣『エクスプロード』を手にとって構えた。

「ショウと戦うために魔力を残しておきたかったんだが・・・考えが変わった、あんたには全力で挑ませてもらう」

 ヴェイドは地を蹴って後方に移動して朝倉との距離をとった。周辺の桜の木々はほとんど燃えていて山火事のようになっている。そんな中でヴェイドは再び剣を地面に突き刺し、「爆ぜろ」の叫びとともに『エリアボム』を発動させた。

 朝倉は爆煙で視界を覆われた中で刀を横薙ぎに振って『百花繚乱』の特性による無数の真空波を発生させた。だが狙っていたヴェイドの魔力が突然真後ろに移動してきた。

「言ったはずだ、本気を出すと!!」

 ヴェイドは体を『ガードオブネイチャー』で覆い防御力を上昇させている朝倉に向かって刺突を放った。朝倉はそれを体にギリギリあたる程度に紙一重で避けてそのままヴェイドに向けて真空波を発生させてさらに後ろに飛び退いて刀を地面に突き立てて再び両の手に魔力を収束させ光の弓と矢を構成する。

 ヴェイドは襲い掛かる真空波を『エアーボム』で各個撃破して防いだ後、剣を構えなおしてその切先に魔力を収束させ、剣を縦に一気に振り下ろした。

「バーストスラッシュッ!!」

「滅亡の破魔矢(デモン・スレイブ)!」

 光の矢と爆発の魔力波、放たれた二つの魔力の収束体は互いに相手に向かって同じ射線上を飛んでいき衝突、直後二つの魔力は発光とともに強大な爆発を引き起こした。二人はどちらもその場からは離れようとはせずその爆発の中その場に踏み止まり続ける。

 爆発による発光が収まると爆心地から半径10メートルほどの範囲にあったもの全てを破壊し尽くして、地面は削れて大きなクレーターが出来ていた。そんな中その原因とも言える二人はどちらもほぼ無傷の状態で立ち続けていた。

「あれだけの爆発に巻き込まれてよく平気なもんだな、俺でも再生能力がなければ無傷じゃないってのに」

「『ガードオブネイチャー』だけじゃ俺も無傷じゃすまなかっただろうけどな、『風花(フランス)(パリエース)・障壁(アエリアーリス)』を使えばこれくらいなら容易く防げる」

「おいおい、そりゃあんたの専門分野とは別種の魔法じゃねぇか」

「ん?」

「だから・・・もういい・・・」

 ヴェイドはもう朝倉に問い詰めることを諦めて再び剣を握りなおした。この世界には魔法は複数の種類に分かれていて、西洋魔術と東洋魔術とで分かれているだけでなく、さらに西洋魔術にもいくつかの種類がある。さらにこの世界とは別の世界にも魔法は存在している。そのうちの3種類の魔法を朝倉は使ったのだ。

「別にいろいろと見せてやってもいいんだが・・・」

 朝倉もヴェイドも完全に自分たちが何のために戦っているのかを忘れかけていた。どちらからも最初ほどの殺意がまったく感じられていなく、むしろ美春たちの存在すらも忘れられているのではないかと思えるほどだ。

「時間もないし、そろそろ決着を付けようか」

「まったく、あんたはいつもそうやってマイペースで・・・って仕方ない、どうせショウとは戦えないんだ、この一撃に『今』の全てを賭けてやろうじゃないか」

 そう言ってヴェイドは手にしている魔剣『エクスプロード』に己が全ての魔力を収束させ始める。その剣に収束される熱によって燃えていた木々の炎はさらに燃え盛る。爆発の能力を持ったヴェイドと爆発の特性を持つ魔剣『エクスプロード』の力を最大限に高めて放たれる攻撃は先の爆発のエネルギーをも上回る。

「力を制限されている状態でそれだけの魔力量・・・さすがは四天王だな」

 朝倉は刀を構えなおしてその刀に魔力を収束させる・・・いや、魔力だけではない。

「っておい、その状態で咸卦法(かんかほう)まで使えるのかよ・・・」

「気にするな」

「いや、さすがにそれは・・・」

 朝倉は刀に魔力と気の二つのエネルギーを合成、収束させていた。二つの対極に位置するエネルギーの融合によって生み出される力は計り知れない。本来ならば身の内と外に纏って強大な力を得る高難度技法だが、それを刀のみに収束させたということはそれだけ通常時での戦闘能力に自信があるのか、もしくはこの一撃で全てを終わらせる自信があるかのどちらかである。

「さて・・・」

 朝倉とヴェイド、お互いに『今』できる全ての力を注ぎ込んだ一撃の準備を整えた二人はそれ以来まったく動こうとはせず、ただ相手の動きに注意していた。両者ともこの一撃を外せば次はない、必倒の一撃のチャンスを覗っているのだ。・・・そして二人は同時に動いた。

「バースト・エクスプロージョンッ!!」

「神鳴流奥義・極大雷鳴剣ッ!!」

お互いの全身全霊を賭けた一撃が衝突する。それぞれのエモノがぶつかり合った瞬間、大爆発が起き、雷が一条の閃光となってその場に落ちる。周囲を爆発と雷の熱が包み込み、周りの木々を燃え盛らせるどころか塵一つ残さず消滅させた。

 砂煙が辺りを包み込み、何も見えないその空間の中で確かに・・・勝敗は決していた。

「・・・おいおい、神鳴流の奥義まで使えるなんてさすがに恐怖を覚えるぞ?」

「くっ・・・桜咲の『それ』よりは威力があったつもりだったんだがな・・・今の状態では『これ』が限界か」

「十分すぎるんじゃないか?」

 砂煙がようやく収まり、視界が晴れてきた。そこには爆発の影響で所々に火傷を負ったものの重傷と呼べるだけのダメージのない朝倉と左腕を完全に消失してしてさらに体中に裂傷の走っているヴェイドがいる。

「こっちは時間切れ・・・そっちは致命傷・・・引き分けってことか・・・・・・」

「仕方ねぇなぁ、今日のところは引いてやるよ。次に合うときにはそいつ自身と戦いたいものだな」

ヴェイドはそういい残すとフッっと姿を消してこの場から去った。その場に残っているのは朝倉ただ一人。

「・・・まったく変わってないねぇあの人も。ただ戦いを好む戦士、魔王の手下にしておくにはおしいねぇ。それよりまさかこんな形で『命』が目覚めるなんて・・・後始末は・・・・・・ショウにでも・・・任せるとするかねぇ・・・・・・」

 完全に口調のおかしい朝倉は最後にそういい残すとその場にばたりとうつ伏せに倒れこんでしまった。

 

 

 

「あれっ?」

「あ、朝倉先輩もうお体は大丈夫なんですか?」

「朝倉く〜ん、もう起きられるんでしょうか〜?」

 俺が目を覚ますとそこには日之影と美春、萌先輩が俺を心配そうに見つめていた。俺は何があったのか思い出そうとしたが美春が吹き飛ばされたあたりで記憶がシャットアウトされていてそれ以降のことが思い出せない。とりあえず俺はその場に立ち上がる。

「よっ、朝倉。ヴェイド相手によく生き残れたなぁ」

 日之影は俺にまるで奇跡の生還を遂げた遭難者にかけるような言葉を投げかけた。

「死んでたまるかよ、っていうか美春の怪我はどうなったんだ?!」

 俺は気になって美春の体を見渡したがどこにも傷らしい傷が見当たらなかった。いや、スリキズっぽいのは残ったままのようだがあれだけの血を流すほどの重傷を治せるのは・・・。

「日之影が治療してくれたのか?」

「一応音夢の時と同じ魔法で治療しておいたから安心しろ、完全に治ってるはずだ」

 いや、スリキズが微妙に治ってないようなんだが・・・まぁいいか。

「それよりも萌先輩に寄生していた魔物は・・・」

「あぁそれならちゃんと駆除されていたぞ?あとアリスの方も白坂が駆除してくれた」

「よかった・・・」

 俺はほっとしてその場に再び座り込んだ。

「あっ、ヴェイドは?!」

 俺は自分を殺そうとしていた敵、ヴェイドのことを思い出して日之影に尋ねた。途中で記憶がぶっ飛んでるし、何があったのかがわからない。

「俺が来たときにはすでにヴェイドは撤退していたぞ?」

「えっ?」

 日之影が言うには来たときにはすでにあたり一面焼け野原状態で周辺にいた萌先輩と美春を救助した後に俺をクレーターの中から担ぎ出したそうだ。後で行ってみたがそのクレーターはあまりにも大きくて隕石でも落ちたのか?と思ってしまうくらいだった。

「とりあえず今日のところは朝倉は家に帰れ、後の始末は俺がしておく」

日之影は俺にそう言うと美春と萌先輩を連れて研究所の方へと向かってその場を去っていった。取り残された俺は仕方なく日之影の言う通りに自宅への帰路につくのだった。

 これだけの騒ぎが起きておいて警察沙汰になっていないのは日之影とさくらが事前にこの島の至る所に一般人が近づかないようにする結界を張っていたそうだ。なんでも無意識のうちにそこには行かないようにできるんだとか。そのおかげで人的被害も出ることなくことは済んだんだそうだ。・・・まぁ公共物や木々は破壊され尽くしているわけなんだが・・・。

 そんなこんなで俺は無事自宅へと辿り着くことができ、音夢や来夢、あとなぜか杉並によって暖かく(?)玄関で迎えられたのだった。

 

 

 

 そんなこんなで俺の長い戦いの日々はその一日目がようやく終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

次回予告 (白坂)

 長い戦いの一日が終わり、俺たちはいつものように風見学園に登校していた。っとその矢先に全校集会が行われ職員不在のためしばらく自宅学習になると暦先生によって伝えられた。

 集会が終わりそれぞれクラスに帰ろうとする中何人かの生徒が暦先生によって名前を読み上げられ、この場に残るように指示された。当然俺や朝倉の名前もあった。

 総勢十名以上がその場に残され、残された理由を日之影によって知らされることになる。さて、一体何が起きるんだろうな。

 

 

 

         次回

        風見学園の秘密

       そして、戦いの日々は幕を開ける