誰かが泣いている。誰かは分からないけど、それは十四、十五歳くらいの女の子だった。

『あ、―――さん、おはようございます』

 少女は近寄ってくる存在に気が付いてその涙を指で拭き取って何事もなかったように彼の名前を呼んだ。

『――・・・泣いていたのか?』

 少女に近寄ってきた黒髪の少年は彼女に話し掛けるなり、そう直接尋ねた。

『・・・うん』

少女はその少年の問いかけに対して正直に答えた。少女の目には拭き取りきれなかった涙が浮かんでいて、誰が見たとしても泣いていたと分かるだろう。

『そうか・・・すまないな、俺の修行も厳しいが、お前の修行の方がきついのは誰が見ても分かるのに・・・・・・俺にはどうしてやる事もできない。だからせめて・・・』

 少年はそう言って少女の体を自分の方に抱き寄せて、そして抱きしめた。少女はそれを嫌がることなく、むしろ好んで身を預けていた。

『せめて・・・少しでも長くこうしていたい・・・』

『―――様・・・』

 そこで視界が暗転して何も見えなくなり、何も聞こえなくなった。そう、これは夢なんだ。誰かが見ている夢・・・。俺、朝倉純一が持つ人の夢を見せられる能力で見せられている夢だったんだ。・・・なのに・・・

―――どうしてこんなにも胸が痛いんだろう―――

 もう何も聞こえてこないし、もう何も見えない。いつもなら既に目が覚めようとしているはずなのに、俺の体はそれを拒んで夢の続きを見たがっている。だけどそれは叶わない願い。夢を見ていた人物が目を覚ましてしまった以上夢の続きを見ることは不可能だ。ただし、それが自分の夢、過去の記憶なら別だが・・・・・・。

 そして視界が暗転してから数分後、俺の体は抵抗を止めて現実の世界へと目覚めていった。

 

 

           第六話

         風見学園の秘密

 

「うぅ・・・眠い・・・・・」

 俺、朝倉純一は目を覚ました。時刻は六時、ありえないくらいに早く目を覚ましてしまっていた。

「ったく、人の夢を見せられる能力なんて、なんの役にも立たないというか、むしろ迷惑だよなぁ・・・ふわあぁ・・・眠い・・・・・」

 人の夢を見せられているときの俺は意識的には起きている状態にあるので、まったく眠った気がしないのである。まったく、昨日はあれだけ死ぬ思いをさせられたってのに、これじゃ体力が回復しない・・・。

「まぁ起きてしまったものは仕方ないか・・・とりあえず着替えるか・・・かったりぃ・・・」

 俺は寝巻き兼私服から風見学園の服に着替えると部屋を出てリビングへと向かった。こんな時間でもあいつらは間違いなく起きているだろう。

「あ、兄さんおはよう。今日は早いんですね」

「あっお兄ちゃんだー、おはよー!」

「ふむ、朝倉、お前にしては朝が早いではないか」

「やあ・・・おはよう音夢、来夢、杉並―――ってなんで杉並がいるんだよ!!」

 俺の想定していた日常的風景とは違い、そこにはなぜか杉並が存在していた。しかも御丁寧にコンビニ弁当を買ってきていたようだ。

「なに、昨日は何かと苦労したであろうからな。とりあえず開戦祝いにと食事を持ってきたのだ。いや、これがなかなか美味いぞ、なにやら新商品だとか」

 そういう杉並の手には『お好み焼き丼』なるものがあった。お好み焼きをどんぶりにするなんて・・・美味いのだろうか・・・いや・・・そもそもお好み焼きはおかずではないような・・・。

「まぁ・・・いいか、杉並、俺の分をくれ」

 俺は杉並からその『お好み焼き丼』を受け取るとさっそく口にしてみた。するとなぜだか分からないが・・・

「・・・美味い・・・・・・信じられん」

「だろう?俺も半信半疑で購入したのだが、これが信じられないことにいける味でな、これからもしばしば食しようと思っている」

 それから俺たちは他愛のない世間話をしながら朝食を済ませて、まだ早いというのにも関わらず家を出て学校へと向かったのだった。

「おーい!朝倉ぁぁぁっちょっとまてぇぇぇぇぇっ!!」

 途中なにやら後方から叫び声が聞こえたが俺たちは気にしないでそのまま歩きつづけた。

「お・・・お前等・・・わざとやってるだろ・・・」

「わおっ!」

 するといつもなら数分後に追いつくはずの人物が一瞬のうちに真後ろに出現していた。

「まったく・・・人に瞬動なんか使わせるんじゃない」

 その人物、白坂藤次はどうやら『瞬動』を使って追いついてきたらしい。っていうか『瞬動』って縮地の一種だよな、もしかしてこいつ某流浪人並にすごい?

「はぁ・・・とりあえず次からはちゃんと待ってくれよ?」

「はいはい、分かったよ」

 俺は適当に相槌を打ってそのまま再び歩き始める。とその目前に今度は一組の男女が姿を表した。

「やあ朝倉、今日は早いんだね。それに杉並に白坂、妹さんたちもいるみたいだね」

「おはようっす、朝倉くん。それに皆さんおはようございます」

「これはこれは学園のアイドル白河ことりにその幼馴染の橘炎次、奇遇だな」

「おはよう橘、昨日は眞子が世話になったな、代わりに礼を言うよ」

「おはようございます、白河さん、橘くん」

「おっはよー白河さんに炎ちゃーん」

「来夢ちゃん、お願いだから炎ちゃん・・・・・・はやめてくれないかな・・・」

 と他愛のない世間一般的に見ても平和で日常的な挨拶を交わして俺たちはさらにその二人を加えて学園へと向かった。

 それはいいのだが・・・なんで今日に限って・・・

「おはようございます朝倉先輩、音夢先輩、来夢先輩、杉並先輩に白坂先輩に白河先輩に橘先輩、今日もいい天気ですねぇ〜」

 と昨日あれだけのケガを負っていた(傷は魔法で癒されていたみたいだけど)天枷美春が俺たちと合流したのだった。いや、別に一緒に登校するのは構わないんだが、さすがに人数多くないか・・・?

 そんな矢先にまた知り合いに会ってしまった。

「あっ!来夢ちゃぁぁぁぁぁんおはよぉぉぉぉうっ!!」

「あ、おはよう斎藤くん、今日も元気だねぇ。――――あ、危ない斎藤くん!!」

「えっ?ってぐあふわぁぁぁっ!!」

 っと出会った斎藤健一は来夢に近寄ろうとした瞬間、どこからともなく現れた水越眞子の殺人拳によって数メートル先の壁に叩きつけられたのだった。

「くうぅ・・・いきなり何するんだ眞子ッ!!」

「何って、あんたが来夢に抱きつこうとしていたから間違いが起こる前に正してあげただけだけど?」

「お前・・・クラスメイトをそんな目でしか見れないのか・・・」

「あんただけは特別よ」

「そうですか・・・どうせ俺なんてストーカー紛いですよ・・・だ」

 眞子の殺人拳(もはや本当に殺人になるのではないだろうか?)を食らって尚平然と立ち上がって眞子に抗議をしていた。本当にあいつは人間なんだろうか・・・。

 そして俺たちはさらに斎藤と眞子を加えた大人数で学園へと向かったのだった。流石にこれ以上は人数が増えることはなく学園にたどり着くことができた。

「それじゃあ朝倉、僕とことりはこれで」

「またね朝倉くん」

 まず校門でことりと橘が先に教室へと向かった。

「美春も行きますね、朝倉先輩方、またお昼休みにお会いしましょう」

 そして一学年下である美春も俺たちと別れて自分の教室へと向かった。他のメンバーは全員同じクラスなのでそのまま全員で教室へと向かう事にした。

 教室につくと時間が早いにも関わらず先客がいた。日之影翔と俺の従姉で別のクラスの芳乃さくらである。

「おはよう日之影、昨日は助かったよ」

「――別に俺は何もしていない、俺が治療しなくても死にはしなかっただろうしな」

「あ――応急処置してくれたのは日之影じゃなかったんだっけ?」

 昨日のヴェイドとの戦いを思い出す。――が、途中から記憶がなくて誰が治療したのかは分からなかった。

「あ、そろそろ風紀委員のお仕事がありますので私は失礼しますね」

 そう言ったのは音夢でどうやら風紀委員のお仕事があるらしい。おそらく校門で生徒を取り締まるのだろう。俺は音夢が教室を出て行くのを見送ったあと、話を切り出した。

「日之影、これからのことなんだが―――」

「朝倉、これからのことなんだがな―――」

「「あっ」」

 二人は同時に話を切り出してしまい、どうにも微妙な雰囲気になってしまった。お互いに先を譲り合って、先に根負けした日之影が話をはじめた。

「これからのことなんだが、とりあえず今のままでは低級の魔族ならいいがヴェイドのような奴が出てきたらまったく歯が立たない。つまり、しばらくは修行をしてもらうことになるだろう」

「ふむ、たしかに今の朝倉では役に立ちそうにない。しかし修行といってもどこで修行するのだね?」

「それは・・・まぁそのうち分かることだ。今はこのことは何も考えないで『最後』の一般的学生生活を楽しめ」

 日之影はそういって席を立ってさくらと共に教室を出て行った。杉並はなにか思い当たる節があるようで日之影たちの後を密かに付いて行く。

「――それにしても、『最後』の・・・・・・か」

 日之影はこれが最後の学生生活になると言っていた。冗談だと受け取りたいけど冗談には思えなかった。だってそれは・・・幾多の戦場を駆け抜けてきた戦士の発した言葉だったからだ。

 

 

 

「風見学園本校、及び付属の生徒は速やかに体育館に集合してください」

 教室に設置されているスピーカーから声が発せられた。時刻は現在ちょうど八時である。昨日のことから考えて集会が行われることは間違いなかった。学園の教師、従業員が一名を除いて全員病院で療養中である。そんな状況で学業の場として機能するわけがなかった。

 俺たちは教室を出て各自自由なルートで体育館へと向かった。先導する教師がいないのだからばらばらになるのは仕方のないことだろう。でも・・・

「なんでお前らは俺についてくるんだ?」

「別に、こっちが最短ルートなだけだけど?」

「んー私はお兄ちゃんと一緒に居たいからなんだけど」

「別に、友人が付いて行くことに問題はないだろ?」

「俺は来夢ちゃんの行くところなら例え火の中水の中どこでも・・・」

 俺の質問に対して四者四様で答えるマイフレンズの白坂に斎藤に眞子、そして来夢。うち一名ほど不純な動機であることはこの場合気に止めないでおこう。追求したところで奴の考えは変わらん。このストーカー野郎ッ!!

「ん・・・朝倉、何か言ったか?」

「いーや何も」

 なんて鋭い奴、口にしてもいないのに何かが聞こえていたらしい。

 そんな俺たちは五人で体育館まで移動してクラスの集合場所に集合した順番で並んだ。並んでいる最中、他のクラスに目をやるとことり達や美春にアリス、それに萌先輩もすでにクラスの列に並んでいた。唯一姿が確認できなかった男は・・・

「ふむ、どうやら日之影はこっちにも来ていないようだな」

 何時の間にか俺の背後にいた白坂と入れ替わっていた(正確には白坂が後ろに下がってわざわざ杉並に場所を譲っていた)杉並を除いて日之影のみだった。

「こっちにも来ていない・・・ってどういうことだ?」

「言葉通りの意味だ。日之影は教室を出て以来姿を暗ませている。吉乃嬢がこの場にいるのだからもしやと思ったのだが、世の中思い通りにはならないものだな」

 どうやら日之影は教室から出て行って以来その後を追っていった杉並にすら姿を見られていないらしい。同時に出て行ったさくらならどこにいるかわかるんだろうけど、わざわざそんなことでいきなり抱きついてくるような人物のところに行くのは自殺行為である。―――実際に殺されかねない・・・男どもに・・・。

「全員集合したかー?それじゃあさっそくだが、本校は本日、この集会を持ってしばらく休校することになった」

 生徒たちはみんな黙って連絡事項を聞いている。まぁ職員がいないんじゃ休校になっても不思議じゃないしな。

「暦先生、休校になることは構わないのですが、その間生徒はどうすればいいんですか?」

 3組の橘が暦先生に質問をする。さすが優等生、しっかりしてるよな。

「それについては休校に伴い街に新しくできた予備校で授業をすることになっている。長い休校になるのだから学業を疎かにするわけにもいかないだろ?」

 その瞬間生徒たちが喚き散らし始めた。まぁそうだろうな、せっかく学校が休みになると思ったら授業はするっていうんだから・・・。

「――というわけだ、反論は一切受け付けない。今日はもうこれで終わりにするから好きにしていいぞ。・・・・・・あぁそうだ、今から呼ぶ生徒のみこの場に残ってくれ。他の関係のない生徒は速やかに退出すること」

 やっぱりきたか。暦先生が研究所の職員であることは知っていたため薄々こうなることは予測できていた。まぁ日之影が消えたことからも予測できる事態ではあるが。

「――附属2年1組『天枷美春』、同学年2組『月城アリス』、附属3年1組『朝倉純一』、『朝倉音夢』、『朝倉来夢』、『工藤叶』、『斎藤健一』、『白坂藤次』、『杉並』『水越眞子』、『胡ノ宮環』、同学年2組『蒼空寺天馬』、同学年3組『橘炎次』、『白河ことり』、『芳乃さくら』、本校1年2組『水越萌』、以上16名はこの場に残ること。それじゃ解散」

 集まっていた生徒たちが次々に外へ出て行く中、名前を呼ばれた俺たちはみんなで一箇所(なぜか俺のところ)に集まっていた。

「ふむ、まさかこれだけの人数が『選ばれて』いたとは・・・さすがに予想以上だな」

 杉並は集まった16名という人数を見てそう呟いた。俺もそう思う。だっていくらなんでもこの人数は多い。しかも蒼空寺・・・とかいうやつ以外は全員俺の知り合いなのだ。

「――みんな出て行ったようだし、そろそろ始めようか、暦先生」

 この場にいなかった、聞き慣れた声がステージの方からして俺たちはそちらに振り向いた。そこには『呼ばれていない』はずの日之影が静かに佇んでいた。

「日之影、これはどういうこのなの?」

 眞子が日之影に問い掛ける。

「どういうことも何もないだろう。ここにいる者は全員『共通点』がある。分からないか?」

「えっ?」

 日之影の発した『共通点』という言葉に各々が反応する。何のリアクションも取らなかったのは魔法使いで研究所の関係者であるさくらと来夢、そして杉並の三人だけだった。美春は首を傾げている所からするとどうやら何も知らされていないらしい。

「まぁ分からないのなら仕方がないか・・・。ここに残っている者は全員、機能までに魔族、もしくは魔物と遭遇した者だ。朝倉音夢は下校中に寄った桜公園で、工藤、胡ノ宮は下校中に魔族と遭遇、そこを蒼空寺天馬によって救われた。美春は天枷教授の娘さんでヴェイドと交戦、白坂と眞子は屋上で魔物に襲われ、橘とことりはレイヴン・・・氷属性を持った魔族に襲われ、斎藤は独自に調査を行って魔族の存在を突き止めていた。萌とアリスは魔物に寄生されていた。――どうだ、呼ばれるのは当然だろ?」

 日之影は俺たちの元へ歩み寄りながら俺たちを呼んだ理由を口にした。さくらたち三人は知っていたようで特に動じたりはしなかったが、俺やその他のメンバーは蒼空寺以外全員が驚き、互いに顔を見合わせていた。

――――全員が魔族と遭遇していた――――

 その事実は俺にとってあまり好ましいものではなかった。よりによって自分の知り合いばかりが魔族と遭遇していて、そしてこれから起こるであろうことに巻き込まれようとしているのだから。

「それで、みんなにはこれからしばらくの間風見学園内に寝泊りしてもらうことになる。基本的に男女で二班に分けて寝泊りしてもらうことになる。それ以外に全体での班分けをすることになるんだが、それはまぁあとでいいだろう。とりあえず女子の方の生活面の準備は暦先生が行ってくれる。男子は・・・まぁ俺が担当することになるだろう。ここまでいいか?」

 日之影が俺たち全員に尋ねてくる。俺たちは全員黙ったままじっと日之影を見つめている。

「それじゃ、とりあえず場所を変えようか。ついて来きな」

 今度は日之影ではなく暦先生が口を開いて俺たちを別の場所へと移動させる。先頭を暦先生、日之影が行き、その後ろにさくらたち3人が、そのさらに後方を残りのメンバーがついて行く。

 そうして俺たちが案内された場所は風見学園の一番外れの校舎の一階から二階へと続く階段、正確にはそこの奥にあった関係者以外立ち入り禁止と書かれた古い紙の貼り付けられたこれまたかなり年代物の扉の前である。立ち入り禁止とされている封印指定区画とされていて、誰も中には入った者はいないらしい。いや、正確には毎日のように誰かが出入りをしているのは間違いなかった。いくら古びているとはいえ、扉には錆が特に見当たらないのだ。誰も出入りをしていないのならとっくに錆付いているはずである。まぁそこにいる杉並なら立ち入り禁止区画でも容赦なく入り込んでいきそうだけど。

「みんないるな?――それじゃ中に入るぞ」

 日之影は後続の俺たちが全員いることを確認すると扉を開けて中に入っていく。その後を暦先生、さくらたち、そして俺たちの順番に入っていく。中は真っ暗で何も見えなかった。暦先生が足元には十分気をつけるように、と言ったような気がしたがそれも空しくまず眞子がこけた。続いて萌先輩が、それして連鎖的に後ろにいたメンバーが全員こけてしまった。

「何をやっているのだね?」

 前のほうから杉並の声がしたが正確な位置は掴めない。こう暗いんじゃ距離感も掴めなくなる。

 入ってから一分くらいしたところで暗闇に目が慣れてきた。慣れてきたといってもそれでもやはりほとんど何も見えない。ただ近くにあるものだけはかろうじて視認することができる程度だ。

そしてさらにそこから三十秒くらいしたところでどうやら次は階段を下りるらしい。俺たちは転ばないように慎重に足を進めていく。

階段はそれほど長いものではなかったようで約三階分ほどを下りたところでようやく目的の場所に辿り着いたらしい。先行していた日之影が近くにあったスイッチを入れて明かりを付ける。するとそこには・・・

「うそ・・・こんなところが風見学園にあったなんて・・・」

 音夢が驚嘆の声を漏らす。他のメンバーも俺を含めてそのほとんどが同じように驚きを隠せなかった。そこにあったものは、とても広い空間にいろいろな機材、剣や弓、槍などの武器、鍛錬用の部屋に瞑想用の小さな部屋、そして中央にある十数メートルほど掘り下げられた競技場のようなスペースのある『訓練場』だった。

「へぇーすごいな、あそこに置いてある剣、ここから見えるだけでも相当な代物ばかりじゃないか。まぁ複製品のようだが、『ダインスレフ』『カラドボルグ』『アロンダイト』『フルンディング』、あと・・・あれは莫耶の宝剣?ってことは『干将・莫耶』か」

 何かと刃物の類に詳しい斎藤が置いてあった刀剣類を見て半ば感動しているような感じに驚いている。とりあえず俺はまったく分からん。

「さすが斎藤だな。その通り、あれは神話などに出てくる刀剣、その複製品だ。俺たちの世界の方の魔法で作った贋作で、まぁランク的に見るとオリジナルがAランクだとすれば2ランク下がってCランクになる。まぁ2ランク下がるだけに抑えるだけでも俺たちの世界の魔法では専門の奴しかできない技なんだが、こっちにはもっとすごい複製のできる者もいるそうだ。まぁ系統的に見ると朝倉たちの魔法とは別種だから今この場にあちらさんの魔法使い、いや、魔術師はいないんだけどな。そうそう、魔法で作った存在などというものはそう長く存在していられるものではないんだけどな、知り合いの魔法使いが人外の存在で、ほぼ無期限に存在させることに成功していてね、あれはそいつに作ってもらった物だよ」

「そんなことはどうでもいいです。ここは一体何なんですか?」

 至って冷静に見える音夢(実際にはこういうときは冷静じゃないんだけどなあいつ)が日之影に問い詰める。日之影は何かを考え込むような仕草をして口を開く。

「まぁ見たまんまだ。ここは来たるべき魔族との戦いに備えて能力者を育てる施設だ。ちなみにここは天枷支部でここの代表者は天枷美春の親父さんだ。ちなみに同じような施設が日本国内だけでもあと15箇所ほどあるんだが、ここほど人材は揃っていない。まぁさっき天枷支部と言ったが、実質的な本部になるからな」

「本部ですか、それは日之影くんがいるから?」

 橘の横で静かに佇んでいたことりがさらに日之影に問い掛ける。

「あぁ、もともとこの研究所を作るように指示したのは俺だからな。―――あぁそうだった、何人かはまだ知らなかったんだったな。俺は前回の戦争、封魔戦争に参加していた。騎士と呼ばれる一族の一人にして、まぁ実質その頂点に立つ者だ。今はちょっとした理由で力を発揮できないが、力が戻ればレイヴンくらい平気で倒せる自信はあるぞ?・・・・・・まぁあちらさんも力が制限されているみたいだけどな」

 その後日之影は自分の年齢は実質百を越えていると付け加え、それに対してのみんなの驚きが正直一番だったと思われた。実際百歳を越えていると言われても実感湧かないよな、どう考えても見た目は同年代くらいだし。

「とりあえずここまでで何か質問はあるか?」

 日之影は全員を見渡しながら言った。質問も何も何を聴けばいいのかもわからない俺たちは日之影に尋ねることなんてない・・・と思ったんだが、

「―――とりあえず、胡ノ宮や月城、白坂の家の奴と一緒に修行するのはいいんだが、他の雑魚の一般人と肩を並べて修行・・・なんてのはごめんだね。他の連中も修行に加えるって言うなら俺は下ろさせてもらうぜ」

 などと今まで黙って佇んでいた蒼空寺が言いやがった。

「おい、誰が雑魚だって?!」

 そう言いながら斎藤が蒼空寺の胸倉を掴もうとする。それを蒼空寺はさも自然に、ほんの少しだけ体をずらして躱した。

「どう見ても雑魚だろ?たかが魔物に洗脳されちまうような奴や、そんな奴にいつも殴り飛ばされているような奴は雑魚以外の何者でもないと思うが?」

「て・・・テメェッ!!!」

 斎藤が叫び、そのまま蒼空寺に殴りかかろうとした。斎藤の拳が蒼空寺の顔面に迫る。時間にして僅か一秒にも満たない、しかし、その僅かな時間で斎藤と蒼空寺の間に割り込んで斎藤の拳を止めた男がいた。杉並である。

「何しやがるんだ杉並ッ!」

「まぁそう早まるな。ほれ、あそこに丁度いい広さの競技用のフィールドがある。やり合うのならあそこでやりたまえ」

 そう言った杉並の右人差し指で指し示された先には先ほど説明した十数メートルほど掘り下げられた競技場があった。どうやら杉並は喧嘩を止める気はないらしい。

「いいだろう、せいぜい力の差を思い知るんだな」

「そっちこそそんなことをほざいた事、後で後悔しても知らねぇぞ」

 殺気立つ斎藤に対して蒼空寺は至って冷静。まるで殺気を放っている斎藤など眼中になし、といった感じだった。嫌な予感がする・・・もしかしたら斎藤は・・・・・・。

 

 

 

「今回の試合では基本として武器の使用を禁じる。ただし、それは人体への攻撃のみを対象とし、攻撃以外を目的とした使用は認める」

 日之影の声が静まり返った場に響き渡る。掘り下げられた場所の周りを取り囲むようにして俺たちはその掘り下げられた場所を見つめている。そこには斎藤と、橘よりも薄い、というよりも限りなく空の色に近い髪の色をした蒼空寺がお互いの間隔が十メートルほどの位置で対立している。二人はお互いに開始の合図を待ち続けている。

「勝敗は基本的にこちらで判断する。勝利条件は相手に致命傷のダメージを負わせること。致命傷といっても治療魔法で回復でき―――」

「試合のルールなんてどうでもいいからさっさと始めてくれ日之影」

「たしかにそれには同じ意見だ。この場にいる以上、どちらかが戦えなくなるまで、痛めつければいいだけだろう」

 日之影の説明を斎藤と蒼空寺が強制的に停止させた。日之影は少し納得のいかないといった表情をしながら口を開く。

「・・・それじゃ、試合開始ッ!!」

 日之影の開始の合図とともに斎藤が駆ける。武装はお互いに無しの徒手空拳、下手な小細工のない殴り合いになる。そう誰もが思った瞬間。

「―――遅いな」

 蒼空寺は斎藤の顔面への右ストレートを、右足を軽く引いて体をずらしただけで躱し、続く左拳の第二撃を右手で受け止め、そしてがら空きだった斎藤の腹に左拳を打ち出した。拳は斎藤の腹にクリーンヒットし、斎藤はその場から5メートルほど飛ばされてしまった。

 ただの一撃で地に手をついている斎藤がいる。ただそれだけの事実が今は信じられない。これは試合どころか殴り合いにすらならない、これから行われるだろうことはただの一方通行の暴力だけ。

「もう終わりか?」

「―――んなわけないだろ!!」

 斎藤は立ち上がって体勢を立て直すと今度はゆっくりと間合いを詰めていく。依然、蒼空寺はその場を動かない。

「やっぱ無手ってのはやりづらいな・・・」

 斎藤は間合い二メートルの地点で足を止めた。斎藤には白坂のような異常な身体能力はない。あいつは頑丈なだけだ。

 それに対して蒼空寺は・・・信じられないけど身体能力は白坂にも劣っていない。人間を五メートルも飛ばしたのだ、一般人であるはずがない。正直、俺だったら間違いなく気絶していただろう。

 二人は長い間静止していた。いや、実際の時間にすれば十秒と経ってはいない。だが、今のこの状況はそれだけでも長く感じられた。そして、長くて短い静寂が破られる。

 先に動いたのはやっぱり斎藤。一気に間合いを詰めて左拳を打ち出す。しかし、それは蒼空寺には届かない。蒼空寺はまたしてもほんの少し体を動かしただけでそれを躱した。そこへさらに斎藤の右回し蹴りが来るが、それを右腕で受け止める。ダメージはまったくない。

「遅い」

 蒼空寺は右腕で斎藤の回し蹴りを防ぐと、回し蹴りで反撃した。その回し蹴りを斎藤は同じように右腕で防ごうとしたが・・・。

 ゴキィィッ!!

「かはぁっ!!?」

 斎藤は回し蹴りの勢いを止めきれずにそのまま数メートル先の壁まで飛ばされ、叩きつけられた。回し蹴りの直撃の瞬間、骨が砕ける音が上から見ている俺たちの元にも聞こえた。

「――斎藤ッ!!」

 俺は我慢できずに叫んだ。いくらいつも殴り飛ばしている奴でもあんな姿は見たくない。

「もうやめるんだ斎藤ッ!それ以上は死んじまう!!」

「うるさいッ!!男なら黙って見てやがれッ!!!」

 俺の静止を斎藤が叫んでもみ消す。今の斎藤にはもう何を言っても無駄なのかもしれない。

 斎藤は壁に叩きつけられ、体中の骨に軽くひびが入り、頭部からも血が流れている体を無理に起こして蒼空寺を睨みつける。斎藤の目は・・・まだ死んでいない。

「あー頭がいてぇ・・・さすがにこりゃ致命傷だな。だが、おかげで血が抜けて、冷静に・・・冷酷に・・・てめぇを倒せる」

「ん?」

 斎藤は手を制服の中に入れて何かを取り出そうとしている。何かはわからないが・・・あいつならもしかしたら。

 斎藤が手を制服から抜き出した。その手にあったものは、両手合わせて4本のナイフ・・・いや、短剣だった。斎藤は短剣を持ったまま動かず、辺りを見渡している。

「――――――そこだッ!!」

 斎藤は四本の短剣をそれぞれ別方向に向けて投げた。放たれた短剣は蒼空寺には一本すら向かっていない。誰もが何を考えているんだ斎藤は!!と思った瞬間、辺り一面真っ暗闇になった。

「なっ、あいつブレーカーを落としたのか」

 そう言ったのは冷静に試合を見ていた日之影。しかし、斎藤の奴、よく正確にブレーカーを狙えたな。ってちょっと待て。

「――これじゃ何も見えないだろッ!!」

 俺は思いっきり叫んだ。ここは地下である、それもかなり深い。そんな場所に外からの光などは入ってくるはずもなく、ブレーカーが落とされたということは本当に何も見えないのである。

「日之影君、どうにかして明かりをつけることは出来ないんですか?」

横の方から音夢の声が聞こえた。それ以外にも女性陣がなにやら叫んでいたけどそれはこの際無視することにする。

「明かり・・・か、俺だけじゃちょっと足りない・・・か。さくら、出来るか?」

「もちろんなのだ〜、えいッ、『光源(ライティング)』!」

「灯れ・・・『光源(ライティング)』!」

 日之影とさくらが同じ魔法を同時に唱えた。二人の手に光球が出現し、それを二人は天井に向けて投げ放つ。輝く球は天井擦れ擦れで停止して、そのまま宮中に静止した状態で浮いていて、辺り一面を照らしていた。

「うっ・・・まぶしい・・・・・・」

 いきなり強烈な光が目に入ってきたためとても目を開けていられなかった。次第に目が光に慣れてきたのでフィールドを見てみるとそこには―――。

「あれ・・・斎藤が・・・いない?」

 立っているのは蒼空寺だけで斎藤の姿が見当たらなかった。すると杉並が小声で、

「馬鹿・・・よく端のほうを見てみろ」

 と言った。俺は慌ててフィールドの端の方を見てみた。そして俺の目に映ったものは・・・。

「―――斎藤ッ!!」

 俺は堪らず叫んだ。そこには壁にヒビが入るほどの勢いで叩きつけられて意識を失いかけていた斎藤がいた。最早気力で立っているだけのようだった。

「まさか気配遮断ができるとは思わなかったが・・・・・・残念だったな。蒼空寺の人間にそんな姑息な手は通用しない。―――まぁ片腕をもっていったことだけは賞賛に値する。が、所詮はその程度か」

 蒼空寺は斎藤を見下し、そして嘲笑った。そんな彼も左腕を完全に砕かれているみたいだったが、それくらい気にしていないようだった。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・くあっ・・・ごふっ!」

 内臓がやられているのだろう。斎藤は口から血を吐き出した。そんな斎藤を見て日之影がそこまで、と試合の終了を宣言した。

 斎藤はその後白坂と橘によって医務室(保健室ではなくこの訓練場の)運ばれ、治療の魔法の使える日之影と来夢、さくらが三人がかりで斎藤の治療を行った。幸い、斎藤は頑丈だったため、数時間もすれば完全に治る、と日之影が言っていた。音夢の傷を治した日之影の治療魔法でもさすがにあれは厳しかったみたいだ。

 斎藤が無事だったのでそれはもういいとして・・・今の状況を簡単に説明しよう。・・・・・・杉並と蒼空寺の二人がフィールドに立っているのである。

「っていうか蒼空寺の奴左腕折れてたんじゃなかったのか?!」

「それならとっくに治療魔法で治してもらっている」

 なるほど、骨折程度ならすぐに治せるのか、日之影の魔法は。

「それはいいとして朝倉よ、すまんが日之影の代わりに審判を勤めてはくれないか?」

「・・・・・・はい?」

「いや、なに、今から俺と蒼空寺が試合を行うのだから審判が必要であろう?」

 ――そう、斎藤が医務室に運ばれた後、杉並が蒼空寺を挑発していたのだった。

『どれ、次は俺が相手をしよう。まさか斎藤に腕を折られるとは思っていなかったのでな、少々拍子抜けしたのだが、それなりには戦えるようだったのでな、少し楽しませてもらおうか』

 などと言っていたのである。そりゃもう蒼空寺も蒼空寺で、

『なに、腕を折られたのは誤算だったが、それでもたいしたことなかったぜ?お前だけとは言わず、朝倉と一緒にかかって来たらどうだ?』

 などと返した。俺も少し頭にきたけど、杉並に関わるととんでもない目に合わされかねないので今回は杉並に任せることにした。

「はぁ・・・かったりぃ・・・」

 実際に戦うわけではないが、杉並に頼まれるということがそもそもかったるい。けどまぁ御指名されてしまっては仕方ないので審判をすることにした。

 俺は審判用に少し高く作られた場所に移動して杉並と蒼空寺をそれぞれ一度ずつ見据えて、

「それじゃあ試合開始ッ!」

 試合の開始を宣言した。

 

 

 

「はぁはぁはぁはぁ・・・・・・」

 試合開始からはや十分が経過したところで蒼空寺の息が荒れてきた。それに対して杉並はまったく息が上がっていない。

「どうした?そろそろ本気を出してもらわないと面白みがないのだが・・・」

「う・・・うるさい!!というかなんだよその桁外れの身体能力は!!」

 蒼空寺が杉並を見据えたまま叫んだ。解説しよう。実は、試合開始直後から蒼空寺が攻撃を繰り返していたのだが、ただの一発も杉並には当たることがなかった。杉並も杉並でさっさと攻撃すればいいものを、十分経った今までで一度も攻撃を仕掛けないでただひたすら躱すだけだった。いや、ただ躱すだけだったらいいんだが・・・。

『どうしたどうした、蒼空寺の血筋の力はそんなものか?』

『遅い遅い、そんなことでは光の速さには到達できんぞ!!』

『ふっ、俺を倒したければその三倍は速く動け!』

 などと挑発しながら避けるものだから、蒼空寺の奴もさすがに頭に血が上ったのか余計に動きにキレがなくなっていた。そしてその結果が・・・アレである。

「おーい杉並、いい加減にちゃんと戦えよ」

 俺が審判として、そして一傍観者として杉並に注意すると、

「それではつまらないではないか」

 なんて言いやがったよ、あの変態バカは。

「まぁ朝倉の発言は無視するとして、いい加減に本気をだしたらどうなのだね、蒼空寺よ」

「うるさいッ!!あぁもう分かった、てめぇは全力でぶち殺すッ!!!」

 ついに蒼空寺がキレて不穏な発言をした。発言というか叫んだ。叫んだと同時に蒼空寺が地を蹴って一気に杉並との距離を詰めた。一気にというか見えなかったんですけど?!

 目にも止まらぬ速さで杉並との距離を詰めた蒼空寺はそのまま拳を打ち出す。その拳がなにやら燃えているような感じがした。いや、違う、あれは・・・。

「やっと闘気を使ってきたか。そうこなくては面白くないッ!!」

 打ち出された拳をわずかに体を逸らせるだけで躱しながら杉並も応戦を開始した。杉並は地を蹴って一旦後ろに下がって体勢を整えるとすぐに蒼空寺との距離を詰める。これまたまったく目に見えなかった。

 杉並は蒼空寺との距離を零にすると両の拳に闘気を込めて打ち出した。蒼空寺はそれをギリギリのところで躱しながら先ほどのように一瞬で相手の後ろに回りこんで右足で回し蹴りを放つ。それを杉並は右腕で難なく受け止め、お返しと言わんばかりに空いた左の拳を蒼空寺の腹に打ち込んだ。

 蒼空寺は杉並の打ち出した拳を躱しきれないと即座に判断して闘気を腹にのみ集中させて防御力を高めてそれを受けた。それでも蒼空寺は数メートルほど飛ばされたが、何事もなかったかのように着地してそのまま杉並との距離を詰め直す。

 迫る蒼空寺に対して杉並は動じず、その場に留まり続けていた。そして目の前に蒼空寺がきた瞬間、先ほどの蒼空寺のように一瞬で後ろに回り込み、背中に右拳を叩きつけた。

 杉並の拳を背中にモロに食らった蒼空寺は痛みで顔を歪めていた。がそれも一瞬のことですぐさま杉並との距離を離して体勢を整えていた。

「う〜ん、あの二人もよく『瞬動』連発してるなぁ。こりゃ何人かにはまったく見えていないかもな」

「僕は辛うじて見えてるけど、この分じゃ手も足もでないな」

「そうですね、蒼空寺家についてはあまり詳しくないのですが、たしか歴史のある武家であったはずですよ」

 と白坂と橘、胡ノ宮が何やらもはや完全に『あちら』さん的会話をしていた。っていうか魔法使いの俺に着いていけない話をしないでください。というか見えるなら審判代わってください、あと解説もッ!!

 などと心の中で思っているうちに二人の試合は終盤に差し掛かっているようだった。杉並も蒼空寺も特に息が上がっているわけではないみたいだが、蒼空寺の体にはかなりダメージがきているようだ。

「ふむ、どうやら勝負あったようだな」

「―――何者なんだよあんたは。本気は出していないとはいえ蒼空寺家の俺が手も足も出ないなんて・・・信じられねぇ」

「何?まだ本気を出していなかったのかね?ではまだ愉しめる・・・といきたいところだが、どうやら本当の本気は出すわけには行かないようだな」

「チッ、気づいていたのかよ。なら初めから本気でいけばよかったぜ」

「本気と言ってもどうせ全力ではあるまい、ならばこれ以上続けても意味はないな。朝倉よ、勝敗はついたのでな、宣言してもらおうか」

「言っておくが次はこうはいかないからな、覚悟しておけよ」

 などとこちらにはわからないことを二人で話していたが、まぁこの状況で白黒をつけるとしたら・・・まぁこっちだな。

「勝者、杉並ッ!!」

 俺は部屋全体に聞こえるようにそう宣言した。正直後半はなにがなんだかわからなかったんだが・・・まぁ杉並のやることだから気にしていたら負け・・・でいいよな?

「さて・・・と、それじゃあ日之影達のところへ行くとしますか」

 こうして杉並と蒼空寺の戦いはわけのわからないまま幕を閉じたのだった。

 

 

 

俺たちが医務室に付くとそこには日之影、さくら、来夢、そして・・・。

「いやー参った参った。まさか気配遮断してまで負けるとは思ってなかったよ。それより来夢ちゃんが看病してくれてるなんて、うれしいなぁ〜。あ、さくらちゃんもうれしいよ。あーあと日之影もサンキューな」

「無理するな、お前の性格はわかってるからな。どうせお前は『なんで日之影もいるんだよ』とか思ってるに違いないしな」

「よくお分かりで」

 と会話をしているつい先ほどまでは重症で治療を受けていたはずの斎藤がいる。っていうかいくらなんでも目を覚ますの早過ぎないか?!試合のあと気絶してたのに・・・・

「ん?朝倉じゃないか、どうしたんだ、信じられないものを見てしまった。というような顔をして」

 俺の存在に気づいた日之影が俺たちの方を見据えて言った。それで俺たちが来たことに気づいた斎藤たち三人は慌ててこちらに寄ってきた。

「おい朝倉ッ!!あいつはどこにいる!!」

 寄ってくるなり斎藤が今にも殴りかからんばかりの勢いで俺に尋ねてきた。それにしてもこりゃ完全に復活してるな。

「蒼空寺なら今ごろ杉並とこっちに向かってるんじゃないか?」

「はい?なんで杉並と一緒なんだ?」

「そりゃ杉並があいつと闘っていたからに決まってるだろ」

 と答えてやった。後に勝ったのは杉並だ。と付け加えたら斎藤はそれはそれはおっかない顔をして喚き散らした。いや、別に杉並なんだから驚くこともないし、当然の結果だと思うのですが。

「くっそぉー、俺も絶対にあいつをぶっ倒してやる!」

 と生涯のライバルへの闘志を燃やしているような斎藤の発言を聞いての感想、あんな戦いを出来るようになったらもう真っ当な生活できなくなりますよ、斎藤。

「―――心意気だけは買うが、まぁ無理な話だな」

 と後ろのほうから声がしたので振り返ってみるとそこには杉並と蒼空寺の二人がいた。いつの間にやってきたのだろうか?

「とりあえず全員揃ったようだな。それじゃあこれからのこと何だが・・・」

 今にも殴りかかろうとしていた斎藤を俺と橘で止めていたところで日之影が口を開いて言った。さぁて、これからどうなるのやら・・・・・・。まぁどんなことになっても俺はあいつらを守ってみせる。そのためなら俺は・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

次回予告 (ことり)

 こんにちは、白河ことりです。朝倉くんたちと一緒に修行をすることになってから早二週間が経ちました。みんながそれぞれの修行を行う中、女性陣の提案で今度の土曜日に久しぶりにみんなで買い物に出かけることになりました。

 みんなで過ごす時間は楽しくて、あっという間に過ぎ去り、そして夕方になったとき、唐突に・・・それは訪れました。

 

 

 

         次回

     爆発の剣士は娯楽好き?

       剣士が求める者はただ強き者のみ