黒髪の少年は腰に携えている鞘から西洋の剣、片手剣と両手剣の中間の存在であるバスタードソードを引き抜き、下段に構えて周りを取り囲む数多の人ならざる者と相対していた。

『はあぁぁぁぁぁっ!!』

 少年は一気に前方にいる人ならざる者の傍まで駆け、下段に構えていた剣を一気に振り上げ、敵を両断し、次に左右の敵の攻撃を上に跳躍して躱し、落下しながら右の敵を縦に斬り裂き、そのまま剣を返して後ろの敵、左にいた敵を横に斬り裂きた。

 仲間を倒された敵は一斉に少年へと迫り来る。だが、少年は慌てることなく確実に一体、また一体と倒していく。いくら敵の数が多くてもそれら全てが同時に攻撃することはありえない。必ずズレが生じる。故に少年はそのズレの間に敵を確実に仕留め、事実上の一対一に持ち込んでいるのだ。

 敵の数が一体、また一体と減っていき、ついに残るはただ一体を残すのみとなった。

『―――の邪魔はさせないッ!!』

 少年は叫びとともに最後の一体を闇に葬り去る。その場に残ったのはただ一人、人ならざる者と相対していた少年だけである。

 少年は剣を鞘に納め、その場から急いで去っていく。彼が向かう先は自らの想い人の待つ神殿。修行の終わりに敵が攻めてくるとはこのとき誰も思いもしていなかった。彼が修行をしていた施設の仲間は全て敵によって殺され、生き残ったのはただ一人、彼だけである。もともとその施設にはあまり人はいなかった。いたとしてもせいぜい十数人がいいところであった。

 しかし、今彼が向かっている神殿は彼らの拠点とも言えるべき場所である。それなりに人の数は多い、それに警護の数も百を超えていた。だが、その警護の者たちで相手になる敵ではない。

『くそっ!みんな修行に出ていて主力が何人もいないって時に攻めてくるなんてッ!!』

 少年は舌打ちをしながら全力で神殿への道を駆け抜ける。敵の数は恐らく千はいるだろう。彼一人で倒せる数はおそらく二百、到底一人でどうこう出来るものではない。

 だが、それでも少年は駆けつけなければならない。例え何人が死のうとも、『彼女』だけは守り抜くと誓った。

『待ってろよ――、必ず俺が助けてやるッ!!』

 少年は走る、大切な者を守るために・・・。そして、自分自身との、仲間との約束を果たすために・・・・・・。

 

 

           第七話

       爆発の剣士は娯楽好き?

 

「――先輩、起きてくださーい!」

 誰かが俺を呼んでいる。しかし俺は眠いのだ、だからもうしばらく眠らせてくれ。

「―倉、そろそろ起きないとまずいぞ!?」

 また誰かが俺を呼んでいる。だが、俺は本気で眠いのだ。ここ最近ずっと人の夢を見せられてばっかりでまったく疲れがとれやしない。

「うおっ?!ちょっと待て、はやまるな!!」

「さすがにそれはちょっと・・・・・・」

「いいんです、これくらいしないと―さんは起きてくれません」

 なにやら周りが騒がしい。頼むから静かにしてくれ、修行の疲れがまだ残ってるんだ・・・。

「あ、待ちなさい音―――」

―――ドスッ―――

「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「おはよう兄さん、目は覚めましたか?」

 顔面に何かの角が直撃した!っていうか一つや二つどころじゃない、今のは衝撃が十を超えていたぞ?!

「なっ、何するんだよ音夢ッ!!」

「兄さんが起きる気配がありませんでしたので最終手段を使わせていただきました」

「最終手段って・・・・・・・・・ッ?!?!」

 俺こと朝倉純一が辺りを見渡してみると自分の顔があったところを中心に十数冊もの辞書が散りばめていた。もちろん中には顔面に直撃した物もある。

「お前は兄を殺す気かぁぁぁぁぁっ!!」

「この程度で死ぬ兄さんじゃないでしょ?」

 いや、この程度でって言われても・・・下手するとマジで死ぬぞ・・・・・・。

「過ぎてしまったものは放っておけ朝倉。それよりお前今日の予定忘れてないか?」

 俺の部屋、正確には俺と杉並、斎藤に宛がわれた部屋である風見学園付属3年1組の教室だった場所の黒板側の入り口のすぐ側に立っている白坂が俺に疑問を投げかける。今日ってなにか予定あったっけ?

「・・・・・・思い出せないので説明よろしく」

「・・・・・・はぁ・・・・・・」

 その場にいた全員(この場にいない蒼空寺と日之影を除く学生メンバー)が呆れた表情で溜息をついた。

「今日であれから二週間だから久しぶりに遊びに出かけようって昨日みんなで話したでしょ?」

 斎藤の隣にいる眞子がみんなを代表して俺に説明する。なるほど、そういえばそんな話をした気もしないでもないような・・・・・・。

「とりあえず遊びにいくのは分かった。んで、今何時?」

「「「「「「「「「「「「「「もう十時前だッ!!!」」」」」」」」」」」」」」

 その場にいた者すべてが一言一句違わず同じことを同時に叫んだ。当然耳にきたよ、というか痛い、痛すぎる。

 

 

 

 その後俺は急いで外出用の私服に着替えて校門まで走る。他のみんなは全員着替えていたので先に校門で待っているのだ。

 校門に着くとみんなにそれぞれ、「遅い」だの「早くしろ」だの口々に言われた。酷い・・・俺の味方をしてくれる人はだれもいないんだ・・・・・・。

「まっ、そこで黄昏ている朝倉は放って置いてさっさと遊びに行こうぜ?」

「なっ、黄昏ているとは酷いな。俺はいつでもポジティブシンキングだ」

「威張れることじゃないだろ」

 斎藤の言葉に反論すると白坂が俺に突っ込む。いや、そこは突っ込まなくていいよ白坂。

「――とにかく出発しようか」

言い争っている斎藤と俺、そして俺に突っ込みを入れている白坂を見ていて埒があかないと判断した橘が他のメンバーに促した。それによって一行はようやく商店街へと足を進めるのであった。

「しっかしまぁなんというか、これだけの人数で同じ場所に向かうってのはなんだか周りから見たら変に見えるだろうなー。ここらでそろそろ班分けしない?」

 しばらくしてふと斎藤がそんな提案を出してきた。みんなもそれには同感だったようで誰一人拒否を示すことなく話は進んでいく。

「それじゃあ今いるメンバーは・・・っと、朝倉に音夢、来夢に杉並、白坂、斎藤、橘、白河さん、美春、胡ノ宮さんに月城さん、工藤君、芳乃さん、あたしとお姉ちゃん、で十五人でいいかな?」

 眞子が確認を促す。みんなは首を縦に振ったり「オッケー」などと言ったりして肯定を示した。ちなみに俺は考えるのがかったるいから適当に首を縦に振っておいた。

「それじゃあ分け―――」

「ふむ、では俺と朝倉、白坂、斎藤、工藤、橘の六人で一組作らせてもらおう」

 眞子の声を遮って杉並が口を開く。そして見わたすは俺に白坂、斎藤、駆動、橘の五名。そして杉並は言い終わった直後、街に向かって疾走した。

「――なっ?!ちょっと杉並ッ、待ちなさいッ!!」

 怒鳴る眞子を背に一気に駆けて行く杉並、その後に白坂が工藤の手を引っ張って続いていた。っていうか工藤の体が中に浮いてるぞー白坂。まぁそれは置いといて・・・・・・つまりこれは・・・・・・。

「斎藤・・・・・・俺たちも行くぞ!!」

「応ッ!!」

 俺は俺の呼びかけに脊髄反射で答えた斎藤と共に杉並たちを追って街へと疾走する。何故こんなことをするかって?それは・・・・・・。

「あはは、あの五人は息が合ってるなぁ。それじゃあ僕も・・・・・・」

 そう言って後に続こうとした橘だったが、体が前に進まなかった。何故なら―――傍にいた眞子とことり、音夢によって拘束されていたからである。

「・・・・・・あの・・・ことり?」

「橘くんは逃げたりなんてしませんよね?」

「いや・・・・・・あの・・・・・・」

「兄さんたちは逃がしてしまいましたが、橘くんだけは何とか確保することができましたね」

「うーん・・・・・・一人だけじゃちょっと・・・・・・まっいいか、橘くんなら九人分の荷物くらい持てるよね」

「・・・・・・ありがたく荷物持ちをさせていただきます・・・・・・」

 観念して荷物持ちになることを認めた橘。頭を垂れてなにやら無気力になっている。すまん、橘、俺たちは女子に拘束されるのだけは真っ平ごめんだ。尊い犠牲となったお前のことは一生忘れない。

 かくして、俺と斎藤は逃げきり、杉並たちに追いつくことができた。

 

 

 

「それでは諸君、これからどこに行くか決めようではないか」

 何時の間にお前がリーダーになったんだ、と杉並に突っ込みたくなったがあいつに突っ込んでも面白くないのでやめることにする。これは俺たちの中では暗黙の了解であるため、他の三人も突っ込まない。

「それじゃあゲーセン行こうぜ、ゲーセン!」

 まず最初に提案したのは斎藤。なにやら顔がにやけているが見なかったことにしておく。

「ゲーセンってまたベタだなぁ」

「じゃあ他に行くところあるのかよ?」

「んー・・・・・・スポーツセンターとかバッティングセンターとか?」

「・・・・・・頼むから体動かす所は勘弁してくれ・・・・・・」

 ゲームセンターを提案した斎藤に白坂がバッティングセンターを提案したが、正直やめてくれ。修行で疲れた体をこれ以上苛めたくない。

「もうゲーセンでいいじゃないか白坂。もしかしてお前、ゲーム苦手だったりするのか?」

「そんなわけないだろう。俺は文武両道だ、まぁ朝倉がゲーセンに行きたいって言うんだったら仕方ないか」

「俺だったら嫌なのかよ!!」

 斎藤に助け舟を出した俺に白坂が言ったセリフに斎藤が一瞬で反応して突っ込んだ。のはいいが・・・・・・。

「あたりまえだろ」

 と白坂に即答されてしまい泣きながらその場に崩れ落ちて地面にのの字を書き始める斎藤。どうでもいいがこいつが荷物持ちだったほうがよかったかな。

「それでは決まったな。では行こうではないかMy同志たちよ」

「誰がいつお前の同志になったんだ・・・?」

 杉並に突っ込む我等が最強のストッパー工藤。これまでにも幾度となく杉並に突っ込みを入れてきた最強の突っ込み役である。

「ふっ、そんなもの決まっているだろう?そう、俺たちが出会った瞬間からだ!」

 にも関わらず、簡単にあしらわれてしまうあたり杉並は恐ろしい人間である。いや、そもそも人間か?

「ふむ、何を呆れたような顔をしている。行くぞ」

 杉並が先導する中、俺たち四人はその杉並の背中を遠くを見るような目で見つめながらついて行った。

 

 

 

 俺たち五人は歩くこと数分、目的地へと辿り着いた。初音島におけるゲームセンター最大の規模を誇るここは格闘ゲームはもちろんのこと、音ゲーに麻雀にオンライン対戦ゲームにメダルコーナー、果ては飲食店に銭湯までもがある。

 そんな大規模なゲームセンターなだけに人だかりもものすごいものである。置いてある業務用ゲーム機の数が多いからこそまともに遊ぶことができるようなものであった。

 そんなところで俺たちがするゲームはというと・・・・・・。

「―――あったあった!おーいこっちだー!!」

 俺たちより一足先に目的の場所に向かっていた斎藤が大声で俺たちを呼びつける。いや、大きな声で呼ばないと聞こえないのはわかるけど、頼むからやめてくれ、恥ずかしい。

 斎藤のいる場所まで行ってみるとそこには数十台の業務用ゲーム機が横並びに並んでおり、斎藤はその中のひとつに腰掛ける。題名はっと・・・・『起動○士ガンダムSEED DESTINY 連合VSザフトU』・・・・・・だそうだ。

 斎藤はポケットから取り出したサイフの中から百円玉を5枚取り出して重ねて置き、一番上の百円玉を取ってそれを投下する。斎藤がボタンを押すと画面が切り替わって勢力を選ぶ画面になった。斎藤は『ザフト』側を選択し、次の画面で『デスティニー』という機体を選択した。パイロットは『シン・アスカ』という男を選択。画面がさらに切り替わってステージマップが表示された。

「んっ?斎藤、お前『対戦』を選択したのか?」

「もちろん、だって普通にCPU相手にしてもつまらないだろ」

 杉並が言う対戦、とはつまりがゲーセンのゲームによくある乱入形式のプレイヤー同士の戦いである。このゲームの場合は協力もできるみたいだけど。

「ま、見てろって。軽くひねってやるよ」

 斎藤が言い終わった直後に戦闘が開始された。対戦画面の時に見ていなかったけど、どうやら相手の名前は『バクエン』と言うらしい。機体は・・・・・・っと『ムラサメ』らしい。

「ふむ、高コストの『デスティニー』の火力なら低コストである『ムラサメ』程度すぐ倒せるだろうが・・・・・・油断は禁物だぞ?一度落とされれば厳しいはずだ」

 杉並が冷静に状況を見ている。こういうときの杉並は役に立つんだけど、いつもがあれだからなぁ・・・・・・。

 画面に目をやると斎藤の操る『デスティニー』はノーダメージで『ムラサメ』へと突撃していた。そして射程圏内に入った瞬間『デスティニー』が剣を抜いて敵に回り込みながら斬りかかった。・・・・・・しかし。

「なにぃぃぃぃぃっ?!」

 直撃すると思われた攻撃は僅かに相手には届かなかった。攻撃のモーションに入った瞬間、相手は後ろに引いたようである。そして逆に『デスティニー』は『ムラサメ』のビームサーベルによってダメージを負わされてしまった。デスティニーの耐久値が500以下に減少した(この耐久値が無くなると撃墜されて戦力ゲージが減少する。戦力ゲージは初期値1000で、デスティニーの場合はコストが590である)。

 怯んで地面に倒れ伏した『デスティニー』は起き上がるとすぐさま『ムラサメ』との距離をとる。『ムラサメ』は更に攻撃を加えることはしないでその場から動かない。動かない『ムラサメ』を見た『デスティニー』は好機とみてビームライフルを射ちながら近接兵装の届く距離まで近づく。

 一方動かなかった『ムラサメ』は『デスティニー』がビームライフルを放ったのとほぼ同時に横ステップでそれを回避した。連続して放たれるビームライフルを横ステップで全て躱し、『デスティニー』が接近してくるのを待っている。

「あたれ・・・・・・あたれ・・・・・・あたれぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 斎藤は二つのボタンを同時に押して『デスティニー』の特殊格闘を発動させる。『デスティニー』の左手が『ムラサメ』を捕らえようとして・・・・・・躱されて逆に斬り刻まれた。耐久値は300を下回った。

「馬鹿か、『デスティニー』の特格を単発で使うなんて素人だぞ?」

「う・・・・・・うるせぇ・・・・・・」

 杉並が斎藤を少し失望したような目で見ながら言った。白坂は相手の動きを興味津々といった感じで見ている。決して斎藤のテクニックには興味は示していないようだ。かという俺も斎藤のテクニックには興味がない。・・・・・・しっかし、相手のプレイヤーすごいなぁ。機体の性能差を腕でカバーしてるなぁ。

 再び地面に倒れていた『デスティニー』は起き上がると今度はすぐに『ムラサメ』へと突撃していく。あぁ、斎藤の奴完全にキレてるな。蒼空寺との試合といい、どうしてキレやすいかなぁ・・・・・・。

 突撃してくる『デスティニー』に対して『ムラサメ』はビームライフルを放ち、それを確実に直撃させて撃ち落した。これで『デスティニー』の耐久値はすずめの涙、である。そして立ち上がったところを狙われてジ・エンド。戦力ゲージが一気に減ってしまった。

 そして時は経ち・・・・・・・。

「どうやら完敗のようだな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 杉並は至って冷静に述べる。そしてしゃがみ込んで地面に「の」の字を描く斎藤。戦闘の結果は斎藤の『デスティニー』の二墜ちによる敗北。対する相手は無傷のまま勝利した(CPUの方は無傷ではなかったが)。

「ムラサメ相手に負けるなんて・・・・・・ムラサメ相手に負けるなんて・・・・・・ムラサメ相手に負けるなんて・・・・・・ムラサメ相手に負けるなんて・・・・・・ムラサメ・・・・・・なんかに・・・・・・」

 地面に「の」の字を描きながら物々と呟く斎藤を放って置いくことにしよう。

「―――で、次はどうするんだ?別にあいつを倒す必要はないと思うけど?」

「――いや、俺にちょっと戦わせてくれないか?やったことはないけど、多分・・・・・・いける」

 ゲーム機の側でずっと機体一覧を見ていた白坂が先ほどまで斎藤が座っていたゲームの座席に腰掛け、百円玉を投下口に投下してゲームを開始させる。もちろん、勢力選択は斎藤のときと同じ『ザフト』で、選んだ機体は・・・・・・。

「―――フリー・・・・・・・ダム?」

「そのようだな」

 白坂が選択した機体は『フリーダム』と呼ばれる高コストの白いモビルスーツであり、この作品の主人公機である(一応『デスティニー』も主人公機だが)。

「あー白坂、そいつはミスだな。『フリーダム』のコストは560で2回倒されたらEND。それならコスト590である『ストライクフリーダム』の方がよかったはずだぜ?」

 先ほどまで現実逃避を行っていた斎藤が何時の間にか俺の背後に立っていた。斎藤の言う『ストライクフリーダム』というのは名前の通り、『フリーダム』と同じ系統の機体、というか後継機である。もちろんコストが高いだけに性能も向上している。

「いや、どうもドラグーンっていうのがよくわからないから、あまり関係ないと思う」

「そ・・・・・・そういう問題じゃないと思うんだが・・・・・・」

「いや、だってチャージショットの威力はこっちの方が高いし、それに二刀流ってのはちょっと好きじゃないんだよ」

「いや、そういう問題じゃ・・・・・・」

「まぁとにかく見てなよ、斎藤。多分どうにかなるから」

「そうですか・・・・・・」

「それじゃ・・・・・・シラサカ、『フリーダム』、参る」

 ゲーム画面が切り替わって先頭画面になり、パイロット『シラサカ』の駆る『フリーダム』がフィールドに舞い下りる。戦闘開始と同時に『シラサカ』は敵モビルスーツ『ムラサメ』を駆る『バクエン』へと突撃していく。

両者は互いにビームサーベルを構えて相手との距離を詰めていく。近接攻撃ぎりぎりの距離になると両者は横ステップをしながら相手の動向を読み合い、そして同時に斬りかかった。

 交錯するビームサーベルはお互いを弾き飛ばし、両者ともによろめく。ダメージ量は微々たるものではあるが両者に入っている。与えたダメージは『フリーダム』の方が大きい。

 体制を立て直した両者は再び横ステップ、そして再び同時に斬りかかる。それが何度も何度も続き、両者ともにクリーンヒットはまだ入っていない。

「なんだよあの二人、どうして同じタイミングで攻撃してんだよ」

「単に斬りかかるしか能がない奴等なんじゃないの?」

「いや、どちらもいいタイミングで斬りかかっている。同時に攻撃していなければ必ずどちらかの攻撃が当たる間合いだ」

「そうなのか」

「射撃兵装を全く使わないところからすると、よほど接近戦が得意なんだろう。『フリーダム』を使っている奴は初心者らしいが・・・・・」

「マジ?」

 何時の間にか周りで見学をしていた奴等の数が増えていた。もともと斎藤がやっていたときから相手の『ムラサメ』使いの動きを興味心身に見ていた連中も含めて10人は超えている。

「残り120秒か・・・・・・そろそろだな」

「杉並?」

「まぁ黙って見ていろ。すぐに分かることだ」

俺は杉並に言われるままに画面を見据える。そして3秒と経たないうちに杉並の言ったことを理解した。『フリーダム』が『ムラサメ』を撃墜したのだ。

「なんだ、相手の耐久値がなかったのか」

「違う、まぁもう少し見ていろ」

違うのか。じゃあ一体何なんだろう?

「あ、来るぞッ!!」

「おぉっ!!ここで覚醒だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 観客が一斉に騒ぎ出した。なるほど、『覚醒』のことを言っていたのか。ちなみに『ムラサメ』の覚醒はっと・・・・・・『SPEED』か。

 『SPEED覚醒』・・・・・・それは機体の反応速度を極限まで高め、驚異的な速さで敵を翻弄する覚醒スタイルだ。ちなみにこの覚醒の場合は攻撃をキャンセルすることができる。

「ちぃぃっ!!」

 少し苛立った声をあげた。画面を見ると『ムラサメ』の動きについていけず、連続で斬り刻まれている。そしてダウンする前に耐久値が0になって『フリーダム』は撃墜されてしまった。白坂側の戦力ゲージが極限まで減少した(この時点でCPUキャラも撃墜されている)。

 同じように相手の戦力ゲージも減少しているのだが、本体1回、CPU1回だけで低コスト機のため半分も減少していない。

「さて、どうする?」

「もちろん撃墜するまでだ!」

 白坂は『フリーダム』のブーストを全開に噴かして『ムラサメ』へと突撃する。そしてその間合いが近接攻撃の範囲に入ったときに『覚醒』した。

「勝負だッ!!」

 白坂が斬り込む。選択した『覚醒』は『SPEED』、その驚異的な速さで『ムラサメ』を斬り刻む。だが、相手は耐久値が最後まで減りきらずにダウンしてしまった。

「如何に『SPEED』覚醒とは言えど、耐久値が500の状態の敵を完全に倒すことは出来ない。まぁ、初めてにしては上出来だな」

 杉並がこの勝負はついたようなことを言っている。まぁ実際この状況で白坂が勝つ手段は・・・・・・ないな。

 それから『ムラサメ』は一度撃墜されたが、その後『覚醒』をして『フリーダム』を撃墜した。周りで見ていた野次馬たちは「すげぇぇっ!」だの「本当に初心者かよ」とか言っている。―――まぁ白坂って、意外と何でも出来る奴だからなぁ。

「―――しかし、初心者相手に覚醒を使うとは、大人気ないぞ『バクエン』」

「仕方ないだろ、時間がなかったんだ。まっ、この俺を二度も爆ぜたことは誇りに思っていいぜ、挑戦者さんよ?」

 杉並が向かい側でプレイしていた『バクエン』と言う奴に話し掛けていた。それに応じているあたり二人は知り合いのようだが・・・・・・ってちょっとまて、今の声は・・・・・・まさか!?

「それにしても、どいつだ?俺に『覚醒』を使わせた奴」

 向かい側から『バクエン』がこちらの方に姿を現した。炎のように燃え盛りそうな赤い髪、紅い眼をした青年、そう、それは――――――。

「――ってお前はヴェイドッ!!」

「ん?誰かと思えばこの間の『出来損ない』じゃないか。そうか、お前がここにいるってことは杉並はお前等の方の人間だったか。まっ、得体の知れない奴だし、ひょっとするとショウより強くなれるんじゃないか、と、俺に思わせたぐらいの奴だからな。あいつが選んでいないわけないか」

「そんなことはどうでもいい、何でお前がここにいるんだッ!!」

 周りの目も気にせずに俺が叫ぶとヴェイドは―――

「そんなの、遊びにきているに決まってるじゃねぇか」

 と冷静に、そしてそれに何の文句があるんだ?と言わんばかりの顔をして普通に言いやがったよこの魔族!!

「――とりあえず俺は遊びに来ているんだ。どうだ、お前等も一緒に遊ばないか?」

 ・・・・・・ちょっとまて、こいつ何言いました?俺の耳が正常に起動しているのであれば間違いなく『一緒に遊ばないか?』と言いましたよね?こいつ人のこと殺そうとしておきながら次会ったと思ったらいきなり遊ぼう、はないだろッ!!

「久しぶりにお前と腕を競い合うのも悪くはない。では、俺たちもご一緒させてもらうとするか」

 杉並が勝手に決定しやがったよ。あーもうどうにでもなれってんだ!!

 

 

 

――――――意外と普通だった――――――

 ヴェイドの奴は間違いなく、誰が見ても高校生ゲーマーにしか見えなかった。とてもこの間殺し合いをした魔族、『爆炎のヴェイド』と同一人物だとは思えない。いや、だってさ、あのときのあいつ、どう考えても「俺は戦いこそが唯一の生き甲斐なんだ!!」みたいなキャラだったのに。

 杉並とゲームの腕を競い合っているヴェイドは凄かった。そして杉並も杉並で『俺に本気を出させる男はお前だけだ!』とか言っちゃってるし。なんていうか・・・・・・お前等頼むから消えてくれ・・・・・・。

「あのさぁ朝倉。あのヴェイドって奴魔族なんだろ?」

 杉並たちがガン・シューティングゲームに熱中しているので側にあった長椅子に座っている俺の隣に腰掛けている斎藤が俺に小声で尋ねてくる。ちなみに白坂は杉並の後ろで観戦している。あいつもあいつでヴェイドと結構仲良さそうだし。なるほど、強敵とは意外にも仲のいい奴が多い、というのは本当のようだ。

「ん・・・・・・まぁ確かにあいつは魔族だよ。そもそも俺、あいつに殺されかけたし。美春も」

 そんなあいつらを見ていると自然と脱力感を味わえた俺は何とも気の抜けた声で斎藤に応えた。

「なるほどなー、そりゃお前が気が抜けるのも分かるぜ。まぁがんばれ、朝倉。お前はヴェイドを、俺は蒼空寺の野郎を絶対倒すからさ」

 斎藤がやけに気合の入った声で俺に言う。まぁ気合が入るのはいいが、仲間同士で潰し合いをしてどうするんだろうか。

「おっと、もうこんな時間か。悪いな、俺はやることがあるからここらで終わりにしようぜ」

「む、たしかに、これはこちらとしてもまずいな」

 杉並とヴェイドが時間を見て何やら少し慌てている。俺も近くにある時計の針に目をやると、なんともう19時を回っているではありませんか。他の皆は恐らくとっくに学園に帰っているかも知れない。というか20時までに帰らなければ俺たち夕食抜きです。ちなみに小遣いは現在ありません。さて、間に合わなかったらどうしましょう?

「―――なんて悠長なこと思っている暇ないじゃないか!!」

 俺は自分の思考に対して声に出して一人突っ込みを入れながら即座に立ち上がって杉並たちの所まで走り寄る。一応今日のヴェイドとは遊んでいるわけだから挨拶くらいはしないとな。

「ヴェイ―――」

「それじゃあな、今日は楽しかったぜ。今度会うときは敵同士、手加減なしでまた殺し合おうぜ?」

 俺の声を遮ってヴェイドはそう言った後すぐに何処かへと走り去っていった。追いかけてもどうせ人気のないところで消えるだろうから意味ないか。

「―――っと俺たちも早く帰らないとまずい!!杉並、白坂、斎藤・・・・・・全力で走れぇぇぇぇぇぇっ!!」

 そして俺たちは全力で学園まで駆け出していくのであった。

 

 

 

ちなみに時間には間に合ったのだが、そこには辛い現実が待っていた。荷物持ちになることを恐れて逃げた俺たちの分の夕食はなんと用意されていなかった。橘曰く、「自業自得だ」だそうです。あのときの橘、顔はいつもの通り笑顔だったけど、やけに怖かったような気がするのは気のせいですか?

 

 

 

そしてもう一つ、ヴェイドがなぜゲーセンにいたのか。それは『魔界にはあんなものはない』からだそうだ。まぁたしかに、あんな楽しいものがない世界で育ったら、ハマるのは仕方がないよな?・・・・・・まぁ本人曰く、『魔族で人間の作った娯楽アイテムで遊んでいるのは俺ぐらいだから気にするな』とのこと。たしかに、何気なく過ごして来た世界に魔族が紛れている、なんて思うと正直死にたい。まぁ普通の人からすれば『魔法使い』が紛れていることも同じようなものなのかもな。

 

 

 

 

 

次回予告 (眞子)

 まったく、朝倉たちときたら荷物持ちにしようと思ったら一目散に逃げ出して・・・・・・。あーもう、おかげで橘くんが持ちきれなかった荷物、あたしが持つことになったじゃないの。あとでどうして・・・・・・っと、今はそれどころじゃなかったわね。お仕事お仕事。

 修行が始まって三週間が経ったある日、日之影があるテストをすると言い出したの。あたし、テストって嫌いなんだけどなぁ。でも、このテストは『普通の』テストじゃないからいいか。もう二度と魔族にいい様にされない為にも、あたしは強くなる!!

 

 

         次回

       日之影のテスト

          力を統べる八つの属性