数十年前、魔法使いと騎士と呼ばれる者たちによってこの世界の魔王は倒され、桜の木に封印された。

 しかし、今現在魔王は復活しつつある。魔物の人間界への侵入。強硬派魔族による対抗施設への攻撃行動。前大戦における四天王の復活。魔族に限らず、魔と契約し、世界を滅ぼそうとする人間の暗躍。

 魔王の復活を予知していた騎士の長はそれらに対抗するべく人間界へ赴き、そこで力を集めることにした。そして選ばれた少年少女たちは半強制的に戦いに身投じることとなった。

 だが、彼らはいつしか自ら望んで戦いの道を歩んでいった。親しい友人を守るため、大切な家族を守るため・・・・・・そして、自分たちの世界を守るため。

 この話はそんな彼らの中でも特に英雄として扱われた少年少女たちの物語である・・・・・・。

 

 

            外伝

            甦る魔獣

 ここは首都圏からは少し離れたところにある海辺の街、海梨(うみなし)市。辺りを山と海で囲まれた場所にあるこの街を訪れた者たちがいた。―――――――というか・・・・・。

「――なんで俺がナレーションなんかしなきゃならないんだ?」

「仕方ないだろ、本編の主人公がこっちには出られないんだからさ」

 あぁ・・・・・・なんでこんなことになったんだろうか、詳しくは作者のあとがきを見てくれ・・・・・・ここからまじめにいかなければならないようだから・・・・・・。

「それはそうと白坂、斎藤はどこへ消えたんだ?」

 俺、日之影(ひのかげ)(しょう)は隣を歩く黒髪の男の白坂(しらさか)藤次(とうじ)に尋ねる。藤次は特に気にする必要もないといった感じでこちらを見た。

「ん〜、あいつならさっさとゲーセンに行ったぞ?」

 などと俺からしてみれば最悪なことを言いやがった。いや、お前らにとっては別に気にする必要はないのかもしれないが、研究所の代表である俺からしてみればそういった勝手な行動は慎んでもらいたいところなのだが・・・・・・・。

「まったく、何を考えているんだ斎藤は。これだから凡人は困るんだよ。大体、奴には責任感というものが感じられん。俺に歯向かったり、修行に精を出したりするところは好感が持てるが、女好きの上に小さい娘好きというところが気に入らん。その上一人だけでゲーセンだと?ふざけるのも大概にしてもらいたいな」

 俺の後方を歩いている空色でやや長めの髪をした男が不機嫌な顔をしていた。こいつは蒼空寺(そうくうじ)天馬(てんま)。代々古くから伝わる陰陽師の亜種の家系である『蒼空寺』の現当主だ。退魔を主とした『蒼空寺』は今回も含め、古くから魔族との戦いに協力してくれている一族である。その戦闘能力は人間界においては最高峰のため、こいつのように他人を見下したような性格のやつが多いが、基本みんな優しい奴だ。まぁ、斎藤に対する意見は俺も同じなのだが・・・・・・。

「まぁまぁ、それでもあいつは僕たちの仲間だし、学友だろ?それに、いざとなったら彼はできる男なんだし。それに、彼のような人も身の回りにいないと、生きることが楽しくなくなっちゃうよ」

 蒼空寺の隣を歩いている整った青色の髪の男が斎藤のフォローをする。彼は(たちばな)炎次(えんじ)。俺たちと同じ学園に通っていた『元』一般人だ。なぜ『元』なのかは・・・・・・まぁ気にするな。橘は学園でもトップクラスの成績を誇り、研究所においてもその頭脳は生かされている。戦闘においても彼のおかげで切り抜けられた場面が幾多もある。もっとも、戦闘に関しては頭脳というよりもその『能力』がメインなのだが。

「ま、斎藤のことはほっといて、さっさとここの研究所まで行こうぜ?別に重くはないんだけど、荷物が邪魔でさ」

 白坂が両手に持った荷物を肩まで持ち上げて俺たちに見せつける。いや、どこからどう見ても普通の人には重そうな荷物なんだが・・・・・・まぁ、研究所の人間にはこのくらい普通だろうな。というか、斎藤『以外』はみんな同じくらいの荷物を持っているし。

「はははっ、白坂らしいですね。――そういえば、今回の任務のこと、詳しく聞いていませんね。こちらにも研究所があるのなら別に僕たちが出向くこともないでしょうに・・・・・・。日之影、着くまでにある程度教えていただけますか?」

 橘の表情が先ほどまでの微笑ましいものから真剣なものへと変化する。それに合わせて俺や白坂も真剣な表情を浮かべる。たしかに、そろそろ教えておいたほうがいいだろうな。

「――実は、最近になってこの海梨市に出現する魔物、魔族の数が増大してな。現地の研究所のメンバーでは対応しきれないらしい。調べたところ、この海梨市には前大戦で使用された強力な魔物が封印されているらしい。前に使用されたときは現地の人々でどうにか封印できたが、現在の戦力では復活してしまった場合、手が出せないそうだ。で、最近その封印と結界が弱まってきていて、このままでは魔族によって封印が解かれてしまうから、再封印、再結界を張るまでの間、俺たちが防衛することになったんだ。まぁ、相手が普通  の魔族だったら現地のメンバーに任せるつもりだったんだが、どうやらラクフェスたちが今回の作戦に絡んでるらしい」

「ラクフェス・・・・・・ってことはレイヴンもいる可能性がありますね」

 俺の発した『ラクフェス』という名前に橘が表情を曇らせた。橘の言うように、『ラクフェス』が絡んでいるのであれば、同じ四天王である『レイヴン』がいる可能性は高い。

 『ラクフェス』―――前大戦において俺たちを苦しめた四天王の一人。自分は戦場には出ないで安全なところから部下や他の四天王を動かしていた奴だ。そのため直接戦ったことは一度しかないが、それほど戦闘能力があったとは思えない。だが、今回の四天王の復活には奴が絡んでいることは間違いない。そして『レイヴン』―――彼も四天王の一人。氷属性の魔法を使う魔族だ。残り二名は『ヴェイド』と『ゼフィリス』。三人とも厄介な相手だ。

「まぁ確証はないが可能性はあるな。だが、たとえ四天王が全員来ても負ける気はない。だからこそ、こちらの最大戦力をこちらに移したわけだ」

「最大戦力といっても、向こうの防衛もありますから来夢ちゃんたちは置いてきているわけですけどね」

 橘が苦笑する。居残り組のみんなのことを思い出したら俺も無意識に表情が緩んだ。残してきたメンバー、そういえば男が数人しかいなかったな。女子にこき使われてなければいいが。

「ラクフェスたちは日之影を目の敵にしている節がある。攻めてくるとしたらやはりこちらだろう。万が一向こうにあいつらが攻めてきたとしても、あっちには『伝承の人形師』、『出来損ないの魔法使い』、『奇跡の魔法使い』がいるんだぜ。そう簡単に負けはしないだろう。そもそも、俺が認めたあいつらが負けることなど許さん」

 蒼空寺は表情に不機嫌な色を浮かべながら言っているが、内心は心配しているんだろう。ま、俺もあいつらが負けるなんてことは思っちゃいないんだが。

「蒼空寺、一人忘れていないか?」

 白坂が居残り組の人数を確認しながら蒼空寺に尋ねる。その顔はやけにニヤニヤしていた。あ、こいつ絶対遊んでるな。

「ふん、あんなやつのことは忘れろ。あいつは例外だ、俺以外であいつを倒すなどありえるはずない」

「―――俺以外でっていっても、あんたも、負けたじゃねぇか」

「あれは手加減してやったんだ。本気でやれば俺が勝つ。―――というかだ、貴様いつの間に俺の背後に現れた?」

「んっ、ラクフェスがどうのこうのって辺りから」

「わかった、とりあえず俺の背後をとるな」

 蒼空寺は突然後ろに現れた男、斎藤(さいとう)健一(けんいち)を蹴り飛ばす蹴り飛ばされた斎藤は勢い良く八メートル以上は飛ばされたが、真っ直ぐな一本道だったため難なく地面に着地した。

「いってぇな、てめぇ今度こそ殺してやろうか?」

「たわけ、お前が俺に勝った例なんてないだろう。ま、こっちもむしゃくしゃしていたところだ。やるっていうんなら相手になるぜ?」

 斎藤と蒼空寺から殺気が発せられ、空気が重くなる。斎藤は服の内側に仕込んでおいたナイフを取り出し、蒼空寺は呪符を取り出して今まさに戦闘を始めようとしていた。・・・・・・・ってちょっとまて!!

「二人ともいい加減にしろッ!!」

 俺が大声で叫んで制止しようとしても一向に二人は止めようとする気配がない。頼むから、俺のいうことぐらい聞け、実力的にも、あまりいいたくないが年齢的にも・・・・・・。

「はいはい、そこまでにしときなよお二人さん。これから魔族と殺り合うかもしれないっていうのに仲間同士で殺り合ってどうすんだよ。斎藤も斎藤だ、ゲーセンなんかに行ってたお前が悪い」

 白坂が二人の間に割って入ったところで二人から殺気が薄れていく。蒼空寺は熱が入っていた自分が馬鹿らしいのか何も言わずに歩き始める。斎藤は何か白坂に言いたいのか、近くまで詰め寄って言わなければいいことを言った。

「・・・・・・ゲーセン行ってねぇよ。よく考えてみればこの街のこと知らないからな」

「あほかッ!!」

「ぐふぁぁぁぁぁッ!!!」

 斎藤のぼけに全力で答える白坂。右拳で斎藤の腹を殴って今度こそ再起不能なくらいに数十メートル先まで吹っ飛ばす。予想だにしていなかったのか、斎藤は受身を取ることすらできずに地面に衝突して転げ回りながらさらに十二メートルほど進んで止まった。いや、一応一般人には俺たちの存在は知られてないんだから、こんな公衆の場で真昼間からこんなことやってほしくないんだが。まぁ、幸い今は誰もいなくて助かったが・・・・・・。

「いってぇぇぇぇぇぇっ!!何すんだよ、白坂ッ!!」

「――いや、すまん。少々力加減を間違えた」

 あれだけ飛ばされたにも関わらず斎藤はすぐさま起き上がって白坂に文句を言っている。

「・・・・・・とりあえず先を急ごうか」

 このままでは埒があかないので俺が移動を促す。というかさっさと歩き出す。俺が歩き出したから仕方なく斎藤たちも着いてくる。ふぅ、ようやく収まってくれたか。とりあえず、結界の力が最も弱くなるのは明日。明日の夜、できれば何も起こらなければいいが・・・・・・。

 

 

 

 海梨支部の研究所に着いた俺たちは用意されていた部屋に荷物を置いた後、ミーティングルームへと移動した。今回の防衛にあたって作戦を考えないといけないからな。それに、戦力も確認しておきたい。

「では、まず紹介しましょう。こちらが前大戦でも活躍された騎士の一人、ショウ=シャインハルト様です」

「ショウ=シャインハルトだ。こちらでは日之影翔と名乗っている。呼び方はどちらでも構わない。今回の防衛、よろしく頼む」

 俺が挨拶を終えると拍手や歓声が沸き起こる。

「さすが前大戦の英雄ですね。その道の方からすれば神様も同然なのかもしれません」

 橘が俺を見て苦笑する。まぁ、たしかに英雄ともなれば尊敬される対象なのかもしれないが、俺はそんな偉くもない。騎士に生まれたものの宿命でもあるからな。

 俺たち全員の挨拶が終わると、司会がこの研究所の主要メンバーに挨拶するように促した。

「俺は須藤(すどう)雅也(まさや)。この研究所の戦闘部員のリーダーでA+ランクの魔法剣士だ。あんたらの活躍は聞いてるぜ。短い間だがよろしく頼む」

「こちらこそ、須藤さん」

「雅也でいいぜ」

「じゃあ雅也、よろしく頼むよ」

 橘が須藤と握手をする。こういったことは橘が一番向いているからな。斎藤や蒼空寺だと相手の気分を害しかねない。

「えっと、私はA−ランクの治療師(プリースト)朧月(おぼろづき)礼奈(れいな)です。回復魔法しかできませんが、がんばりますのでよろしくお願いします」

 深々と頭を下げて挨拶をする朧月礼奈。やっぱり緊張しているんだろうな。一応俺以外もSランククラスだからな。

「いや、戦闘において回復魔法は役に立つ。俺たちの中で回復魔法が使えるのは日之影だけだからな。回復に専念することのできるやつがいると、助かるぜ」

 朧月が緊張しているのがわかったのか、蒼空寺が優しくに声をかける。少し緊張が解けたのか、朧月も元気よく返事を返した。

「えっと、最後に僕ですね。Bランクの槍士(ランサー)一之瀬(いちのせ)(まこと)です。シンと呼んでください」

 一之瀬が笑顔でこちらに挨拶をする。白坂がそれに応えて挨拶を返した。・・・・・・しかし、Bランクか。ということは他のメンバーは少なくともB−以下ということか。なるほど、これじゃあ確かに防衛は難しいな。

「今まで魔族を相手にどうやって戦ってきたんだ?」

 あまりよくない質問だが、これからのことも考えると聞いておかなければならない。いくら本部ではないとはいえ、あまりにも戦力がなさ過ぎる。

「あぁ、それはだな・・・・・・、ここの支部は他に比べて人数だけは多いんだよ。上位ランクのやつこそ少ないが、B−からCランクまでで四十人はいる。必ず八人一組で行動させているからA−ランクの魔族までならどうにか対処できるんだ。俺と礼奈、シンは三人で一組だけどな」

 なるほど、四十人以上・・・・・・大体五組以上といったところか。A−の魔族まで相手にできるとなると、なんとかなるか。

「――よし、じゃあ部隊を六つに分ける。白坂、斎藤、蒼空寺、橘をリーダーに4つの班を構成。さらに再封印部隊を一つ、そして俺と須藤たちで六つ目の班を作る。位置的には・・・・・・そうだな、一時的な再結界の魔力の増幅も兼ねて封印場所を中心に五芒星に布陣。白坂の班が北、斎藤の班が北西、蒼空寺の班が北東、橘の班が南西、そして俺の班が南東だ。結界に関しては五箇所すべてが破られない限り消えないように俺が張る。まぁ俺が死んだらその時点で結界が破られるわけだが、まずそれはないだろう。簡単な布陣だが、これでいいか?」

 みんなの見渡す。その場を静寂が包み込む。みんなの沈黙は肯定を表していた。

「じゃあ決まりだな。決行は明日、陽が落ちてからだ。それまでは俺と蒼空寺で常に警戒にあたる。蒼空寺、いいな?」

「構わない。別に、遊びに来た訳ではないからな」

 蒼空寺はそう言うと部屋から出て行った。大勢が集まるところはやっぱり好きじゃないんだな。

「それじゃ、これで解散。みんなは明日に備えて休息を取ったり友好を深めておいてくれ」

 その場が一気に騒がしくなる。重苦しい雰囲気は完全に無くなった。ん・・・・・・こうしてみると須藤のやつ、身長俺より高いな。朧月も斎藤の守備範囲外、助かった。一之瀬は・・・・・・俺たちの中でも一番小柄だな。いや、男としてであって、決して女より低いわけではないが。

「あぁ、日之影。あんたに頼みたいことがあるんだが・・・・・・」

 部屋から出ようとしたところを須藤に引き止められる。

「騎士ってたしか魔法剣士と戦闘のスタイルは一緒だったよな?一つご指導兼ねて手合わせをお願いしたいんだが・・・・・・」

 なるほど・・・・・・な。さっきからずっと俺のことを見ていたと思ったら、腕試しがしたいわけか。まぁ当然だな、身の回りに自分より強いやつがいないんだろうからな。

「―いいだろう。悪いが、制約上まだ本気は出せないんだ。それでも構わないのなら相手になろう」

 須藤はそれを聞くや『決闘用フィールドで待ってるからなッ!』と言ってすぐさまに部屋を出て行った。

「―――あの、雅也さんと試合をなさるのですか?」

 話を聞いていたのか朧月が俺に尋ねてくる。いや、朧月だけじゃないな。白坂あたりにも聞かれていたみたいだ。斎藤辺りなんかは物凄く目を輝かせている。あいつ、何かあったら帰ったときのネタにする気だな。

「試合ってほどじゃないな。ちょっと実力を見させてもらうだけだ」

「あ、でしたら僕の力も評価していただけませんか?あまり槍使いがいないもので、周りのことがよくわからないんです」

 一之瀬が笑顔でこちらを見ている。いや、別に構わないんだが、できれば今日は遠慮していただきたい。

「シン、俺でよかったら相手になるぞ?俺のスタイルは剣道なんだが、知り合いに結構な槍使いがいるから多少なりとも評価してやれるからな」

 お?白坂のやつが俺に助け舟を出してくれた。さすが白坂、気が利くな。

「やった!ええっと、お見苦しいような実力しかないかもしれませんが、どうかよろしくお願いします!!」

「あぁ、こちらこそよろしく頼む」

 白坂と一之瀬が改めて握手を交わす。うむ、仲良くなれてよかった。誰かと誰かさんみたいに言葉を交わす度に本気で殺り合い始めるようなことはないみたいだ。いや、ないほうが普通か・・・・・・。

「さて・・・・・・と、須藤が待っているから俺は行くぞ。あとは橘、まかせた」

 俺はあとのことを橘に任せるとその場から駆け足で須藤の待つ場所へと向かった。

 

 

 

「待ってたぜ。こっちの準備はできている。そっちの準備が整ったら始めようぜ」

 フィールドに出ると中央で須藤が右手に剣を構えて立っていた。ふむ、魔法剣士と聞いていたから細めの剣かと思えばそうでもないか。いたってシンプルなロングソードのようだが、たぶん見た目より軽いんだろうな。防具は・・・・・・お、攻撃魔法の威力を緩和するように耐魔力の高い生地で編んである服だな。物理的な防御力はあまりなさそうに見えるが、おそらくそちらは防御系魔法で対応済み、といったところか。

「こっちもいつでも構わない。俺は基本的に武器は常に持ち歩いているからな」

 俺は須藤との間隔が五メートルほどの位置に立ち、腰に下げている剣を抜き取る。まぁなんの魔法の補助もない普通のロングソードなんだが。

「お、そろそろ始まるみたいだな。おーいッ!そろそろ始まるぞー!!」

 観客席にいる人々が周りの人を呼び始めた。いや、見世物ではないんだが・・・・・・まぁ・・・・・・今後の教訓にはなるか。

 ほんの少し、誰にも気づかれないようにため息をつくいてから剣を構える。ついでに一応『光の守護結界(シール・オブ・シャイン)』を身体の表面に張っておくか。

「そんじゃ・・・・・・いくぜッ!!」

 須藤は剣を片手で構えて左手に魔力を収束させる。そして五メートルの間合いを一足で詰めて剣を斜めに振るう。当たってやる気はないのでとりあえず体の重心を少しずらして避ける。そのまま返す刀で振るわれた斬撃を右手の剣で受け流す。攻撃を躱された須藤は地面を蹴って後ろに飛び退く。

 須藤は一旦距離をとると剣を構えなおして再びこちらとの距離を一息に詰めてくる。今度は向かって左から剣を横薙ぎに振るう。それを再び剣で受け流し、後ろに飛び退いて間合いをひらく。さて、様子見はそろそろ終わりか?

「なるほど、単純な攻撃は通用しない・・・・・・か。まぁあれくらいならシンでも躱せるしな。―――それじゃ・・・・・・いくぜ、『闇の拘触手(ダークネス・バインド)』ッ!!」

 須藤が左手に収束させていた魔法を解き放つ。解き放たれた魔力は漆黒の触手となりこちらを捕らえようと物凄い速度で迫ってくる。が、それは予め張っておいた『光の守護結界(シール・オブ・シャイン)』によって俺の身体に触れる寸前で消滅する。属性が『闇』のおかげで効力が倍増。というか対消滅に近い形で『闇の拘触手(ダークネス・バインド)』を打ち消した。守護結界は即座に張りなおしておく。それにしても『闇』属性とは珍しいな。8大属性ではなく4大神属性か。

「――ちっ、この程度じゃだめか・・・・・・ならッ!!」

 須藤は、今度は左手だけでなく全身に魔力を帯びる。身体能力向上(ステータス・インプルーブ)系の魔法か?いや、単純に魔力を全身に行き渡らせているだけか。

 須藤が地を蹴った。須藤の姿は一瞬で消えて次には俺の真後ろに気配が現れる。しかし、予測済みの範囲なので冷静に右手の剣で振るわれた剣を受け流し、ついでに闘気を込めた左拳を須藤の鳩尾に向けて打ち出す。

 須藤はぎりぎりのところで気づき、躱そうとしたが一瞬遅い。俺の拳は須藤の鳩尾にクリーンヒットし、須藤を四十メートルほど先の壁に叩きつけた。壁が砕け散り粉煙が須藤の周りを覆う。・・・・・・力加減ミスったか。

「すっげぇ・・・・・・、須藤が子ども扱いかよ」

「たしかに桁違いだ。だが、須藤だってまだ本気じゃないだろ?」

「それは・・・・・・そうだけどさ」

 観客がざわめく。それぞれいろんなことを口にしているが、特に気にすることもない。大体、あの程度で倒れてもらっては困る。早いところ本気を出してもらいたいところなんだが・・・・・・。

 須藤の周りを覆っていた粉煙が少しずつ晴れる。そこには平然と立っている須藤の姿があった。いや、よく見ると少し額に血が滲んでいるようだ。

「なるほど、治療系の魔法も使えるわけか。かなりいい素質を持っているようだ」

「――なんだ、『リヘイル』使ったのモロばれか。参ったな、できれば無傷を装いたかったんだがな」

 須藤が下を向いて苦笑する。しかし、すぐに表情を真剣なものへと変えて俺に向き直る。そして全身に帯びていた魔力を・・・・・・取り払った。

「なんのつもりだ?魔力を帯びていない、身体能力も向上させていない状態で相手になるとでも思っているのか?」

 相手の動きを見るために挑発してみる。が、須藤は別段気にする様子はなく、平静を保っている。

「あんた、やっぱつえぇよ。本当に強い。たぶん他の四人もみんな俺なんかより桁違いに強いんだろうよ。だがな、俺だって伊達にA+ランクの男じゃない。本気の俺がどこまで通用するか・・・・・・教えてくれッ!!!」

 須藤の身体に再び魔力が収束される。いや、魔力だけじゃない・・・・・・あれは・・・・・・。

「魔力と闘気の合成・・・・・・。最高クラスの身体能力向上技法(ステータス・インプルーブ・アーツ)。魔法剣士だからこそできる戦いってやつで・・・・・・Sランク以上とだって互角に戦ってやるッ!!」

 須藤の中心に彼の魔力と闘気が渦を巻く。それは彼の彼の余りある魔力と闘気が身体から溢れ出している証拠。さらにその量が異常だ。まさかここまでのやつがA+止まりだとは正直驚く。彼の潜在能力(キャパシティー)はおそらくあの四人にもそう劣りはしないだろう。だが、所詮は潜在能力。引き出せなければ意味はない。ならば、俺がしてやることはひとつ・・・・・・・。

「―――こい、相手をしてやるよ。須藤ッ!!」

 須藤が駆ける。先ほどまでとは桁違いの速度で間合いを詰めてくる。だが、こちらも多少本気を出せば追えない動きではない。須藤が右手の剣を振るう。それを先ほどまでと同じように剣を使って受け流す。そして次の行動に備え―――

「ぐっ!?」

 慌ててその場から飛び退く。左腕が熱くなり、見ると浅く斬られていた。振るわれた剣戟は一度、裁ききったにもかかわらずこちらは傷を負ってしまった。この攻撃方法には覚えがあった。真空の刃による攻撃―――。

「『二重斬撃(ダブル・スラッシュ)』か・・・・・・」

 須藤が再び駆ける。そして一瞬で俺の後ろへと移動した須藤は右手で剣を振るうとともに左手で呪文を解き放つ。

雷電爆裂(バースト・スパーク)ッ!!」

 須藤の剣を躱したところで俺の周辺で二、三回小規模な爆発が起きる。爆裂音が鳴り響く中、『光の守護結界(シール・オブ・シャイン)』の防御を突破して電流が俺の身体を駆け巡る。たいしたダメージではないが、相手に付け入る隙を与えるには十分の間を作ることができた。

「極大五属性魔法、属性円舞曲(エレメンタル・ロンド)ッ!!」

須藤にとっておそらく奥の手の一つである極大魔法が解き放たれる。地・水・火・風・雷の五大基本属性の上位魔法『石の貫槍(ストーンランス)』、『水の銃矢(アクアダート)』、『獄炎昇華(ヘルフレイム)』、『真空裂斬(ウィンドスラッシャー)』、『雷の煉獄(パーガトリアルサンダー)』を同時に放つ魔法だ。その威力は地面を抉り、切り刻み、全てを焼き尽くす。なるほど・・・・・・五大基本属性全てを使いこなすことのできるということは、『天』と『闇』の属性を持っているということか。・・・・・・くぅ・・・・・・さすがに厳しいか。

とっさに魔力障壁を張って威力を緩和したとはいえ、無傷ではすまなかった。体中に火傷と切傷を負わされた。だが、このくらいなら『リヘイル』でどうにか回復できる。

 俺は水蒸気や爆煙で司会が覆われている間に治療を済ませる。それにしても驚いた。本気ではないとはいえ、この俺にここまで傷を負わせるとは・・・・・・。

 視界が晴れ、俺の姿が須藤の眼に映る。須藤は特に驚いた様子は見せず、ただ冷静に俺の行動を監視している。そんな須藤とは違って、白坂たちを除く観客が俺の無事を確認するや一斉に歓声をあげ始めた。

「――少し、お前を見くびっていたようだ。ここまでできるやつにまったく本気を出さないのは失礼だな。いいだろう、ここからはお前を倒すつもりで相手をしてやる。着いてきてみせろッ!!」

 自らの内に秘めた魔力を解放する。俺を中心に魔力の渦がその場で荒れ狂い、そしてそれを身体に収束する。もちろん全力ではないが、それでもあいつを打倒しうるだけの量を体中に巡らせる。そして、右手に持つ剣に魔力を流し込み、魔法を解き放つ。

「輝け・・・・・・光刃剣(シャインブレード)ッ!!」

 眩い光が刀身を包み込み、ただの剣であったものを光の剣へと変貌させる。その刀身は全ての者に希望を与えるかの如く光り輝いている。魔力を帯びただけでなく、さらにその刀身に属性を付与する技法を持つ者、それが真の魔法剣士だ。故に、奴はまだ()()()()()()

「さぁ、見せてみろ。お前が魔法剣士である所以の秘儀を」

「―――光を覆い尽くせ・・・・・・暗黒剣(ダークネスブレード)ッ!!」

 闇が須藤の持つ剣の白銀の刃を漆黒の刃へと変貌させる。辺り一面の光を飲み込むような、とても深い闇の剣だ。現在に到るまでに、その魔法を扱えた者はわずか数名しか確認されていない。人間は光と闇、聖と魔の両方の力を扱うことのできる珍しい種ではあるが、闇と魔の属性を扱えるものはそうはいない。

「気に入った。お前の全てを見せてみろ」

 今度はこちらから仕掛ける。須藤の間合いギリギリまで近づき、方向を変えて相手の後ろに回り込む。須藤は遅れることなく後ろの俺に反応して剣を振るう。だが、そんなことは読んでいる。すぐに後ろに飛び退いて空中へと跳躍する。さらに特殊属性『空』の能力で空中の空気を圧縮し、一時的に硬い物質と変化させてそれを足場にして踏み込む。頭上からの攻撃に人間は対処することが難しい。当然須藤は横に飛んで回避した。さらにその先を読む。

地面突起(アースプロジェクション)ッ!!」

 須藤の着地した地面が砕け散り、中から鋭い先端を持った石の突起物が須藤を襲う。しかし、鋭い先端が彼に触れた瞬間に砕け散ってしまった。なるほど、闘気と魔力を融合させる究極技法の完成形、俺たちの世界で言う『消滅の力(イクスティンクション)』か。相反する二つの力を融合させたとき、絶大な力が生ませる。単純な身体能力の向上だけでなく、防御壁の役割も果たし、さらに極みを目指せば、あらゆる物を完全消滅させる究極完全殲滅魔法にすらなる。現代に残された真の意味での魔法、『始祖魔法』に値する魔法だ。彼にはその魔法を会得する才能があるようだ。まぁ、消費される魔力と闘気の量が桁違いで、魔力だけでも『属性円舞曲(エレメンタル・ロンド)』の三十倍は消費するだろうから普通の人間には使えないけどな。いや、まぁ、百年以上前に魔界で一度見たことはあるんだが、正直死ぬかと思ったな。

 相手に触れるだけで消滅させられてしまうのであれば、これ以上接近戦を仕掛けるのはよくないな。だからといって遠距離で攻めきれるものではない。が、あれだけの魔力を消費する以上、長期戦には向いてないはずだ。

「光烈波ッ!!」

 できるだけ相手との距離を離しながら剣を振るい光を帯びた斬撃波を放つ。何度も振るう。相手に近づく隙を与えないように間髪を入れず斬撃波を放ちつづける。ただ、足を止めるどころかただ一撃さえも掠りはしない。今の状態の須藤は間違いなく、完全に常時(・・)の俺に迫っている。目前まで須藤が迫り来る。そして片手で持っていた剣を両手で持ち、俺の懐に踏み込み、その漆黒の刃を此方へと向け横に振り抜く。避けられない。避ける?避ける必要なんて・・・・・・・・・。――――ないだろ?

高々に金属音が鳴り響く。そして直後にコンクリートが割れるような衝突音が部屋中に響き渡る。見ていた者全てから声が失われ、部屋には崩れ落ちるコンクリートの音だけ。俺の見据える先はその崩れ落ちたコンクリートの下。そこにいるのは傷つき横たわる須藤の姿がある。

「―――そう、避ける必要なんてない。もとよりお前にはもう防御に回すだけの魔力も、体力も残っていなかった。たとえ『消滅の力(エクスティンクション)』が強力だろうと、使い手の現在の能力が追いついていなければ、ガス欠となり、防御壁は薄くなり、消滅の効力も失われる。さらに攻撃に付与する消滅の力もない状態では暗黒剣(ダークネスブレード)光刃剣(シャインブレード)の性能は同じ。お互い相反する力であるだけに、残りの魔力の多いほうが打ち勝つ。だからお前は俺の力に耐え切れずに吹き飛んだ。壁に衝突するまではまだ障壁があったからそれほど重傷ではないようだが。とりあえず、お前が全力を出せる時間は最大五秒。それ以上全力で戦い続ければ魔力や闘気の自然回復量を大幅に上回ってしまい、しばらくは戦闘ができる状態でさえなくなるだろうな。使うのなら確実に仕留めろ。仕留められないのなら五秒以上使い続けるな。五秒以上使わなければまた次のチャンスに使うことができるだろう。あと、もし使うのであれば『闘気と魔力の合成(オーラ・マジック・オブ・コンポジション)』で十分だ。今はそれ以上を望む必要はない。『闘気と魔力の合成(オーラ・マジック・オブ・コンポジション)』を極めてしまえば、自ずと魔力も闘気の所持量も増える。完成形である『消滅の力(イクスティンクション)』はあくまで最後の手段にしろ」

 瓦礫に埋もれつつある中、俺が言い終わったところで須藤がふらふらしながらやっとのことで起き上がる。怪我はいい終わるまでにリヘイルで治したようだ。

「・・・・・・は・・・・・・はははっ、やっぱりだめだったかぁ・・・・・・。『属性円舞曲(エレメンタル・ロンド)』なんて使った時点で持たないだろうとは思っていたが、まさか一撃喰らわせる前に切れるなんてなぁ。よし、五秒だな?わかったぜ、五秒以上使うのは・・・・・・・・・・・・・・やめるぜッ!!」

「――ッ!?」

 須藤の姿が視界から消える。俺はすぐに横に飛び退いたが、間に合わず、腹部を斬られた。油断していたため、魔力障壁の類はまったく張っていなかった為に直撃を喰らってしまった。

 血が溢れ出す腹部の傷口を左手で抑えながら治療魔法を施す。だが、完全に治療するひまは与えてくれず、再び須藤の姿が消え、真後ろに須藤の気配が現れる。

 体を反らして直撃だけは避けようとしたがそれでも左足の太腿を斬り裂かれる。須藤の漆黒の刃を俺の血が赤く染め、漆黒の色と混ざりどす黒い赤い色の刃へと変える。

「――はぁ・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

 荒い息遣いが聞こえてくる。俺は右太腿の治療をしながら須藤へと目をやると、体中の穴という穴から汗を噴出し、肩で息をしながら今にも倒れそうな体で必死に立っている奴の姿があった。誰から見ても無理をしているのが見て取れるほど体はガタガタと震え、剣を持つ右手はもはや落とさないようにするので精一杯のようだ。

「もうやめろ、勝負はついている。次お前が動けたとしてもその剣は俺には届かない。たしかにこちらも負傷はしているが、それでもお前の体力の方が限界だ」

「はは・・・・・・わかってるぜ・・・・・・。だけどな、中途半端には終わらせたくないんだよ。あんたみたいな強い奴と戦えることはこの先ないかもしれないだろ?魔族にも強い奴はいるが、俺と同じ魔法剣士、いや、その原点である騎士と戦えるなんてことはもうないかもしれないんだ。だから、頼むぜ・・・・・・最後まで戦わせてくれ」

 須藤の限界の体に再び力が戻る。それには、次の一撃で終わっていい、次の一撃のためならすべてを賭けてもいいという思いが感じられた。今になって気づいた。須藤は、俺と戦えることが嬉しかったのだ。おそらく、彼はかつて自分たちの世界を救った英雄に憧れ、いつか自分も同じようになれたらと思っていたのかもしれない。それなのに俺はその思いに気づかないで中途半端に終わらせようとしている。それは・・・・・・それだけは・・・・・・絶対にしてはならない。

「――あぁ、わかった。お前の望み通りにしてやる。次で最後だ、容赦はしないぞッ!!」

俺は体に纏っている魔力を全て剣に注ぎ込む。次で決める、ならば防御など意味はあらず。ただこの一撃に今の全てを・・・・・・。

それを見た須藤は口元をニヤリと綻ばせて、己の剣をしっかりと握り締め、そして構える。俺も須藤に合わせて剣を握り締め、構える。

―――――さぁ、いくぜッ!!――――

 同時に相手に向かって飛び出す。お互い間合いに入ると剣と剣を打ち合う。障壁なんかは張っていない。その一撃が入るだけでも決着は着くが、そんなことでは決着を着けるわけにはいかない。

 お互い一歩も引かず剣を振るう。互いの武器がぶつかり合う度に衝撃波が生まれ、地面や壁を破壊する。数メートル上にある観客席には被害を出さないために常時魔力障壁が張ってあるが、それだけでは破られる可能性があるため、研究所の魔法使いたちがさらに魔力障壁を上乗せしている。

 その場に鳴り響くのは俺たちの剣戟による金属音と互いの息遣いのみ。見ている者は息を潜めてただじっと俺たちの剣戟を見届けている。

 何分経過しただろうか。いや、もしかしたらまだ数秒と経っていないのかもしれない。俺たちは何度も何度も剣を打ち合い続けた。そして、幾度目かの剣戟の後、俺たちは互いに後ろに退き距離をとった。

 その場にいた全ての者が確信した。次の一撃が本当に最後の一撃であると。そう、もう須藤の体力は持たない。彼が全力で最後の一撃を放つには、これ以上打ち合うことはできなかった。

「――楽しかったぜ。次打ち合うときにはもっと強くなってるからな」

 剣を下段に構え、俺を見据える須藤。それに対し、俺は剣を正眼に構える。

 空間を静寂が包み込む。しかし、それは僅か一秒にも満たない時間だった。俺と須藤は同時に間合いを詰め、そしてお互いの技をぶつけ合う。

「光牙烈空斬ッ!!」

「漆黒爆砕剣ッ!!」

 強大な力を帯びた剣と剣が衝突したとき、先ほどまでとは比べ物にならないほどの衝撃波が周囲を襲った。俺たちを起点に生じた衝撃波は地面を砕き、壁を破壊し、魔力障壁を破り、観客席にまで被害を与えた。そして、その衝撃波を生むことになった張本人である俺と須藤の戦いは・・・・・・。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 須藤が叫び声をあげながら壁まで吹き飛ばされ、粉々になっている壁に衝突してさらにその壁を無残な状態に変化させた。俺と須藤の戦いは、俺の勝利で幕を下ろすこととなった。

「大丈夫か?さすがに障壁なしで壁にぶつかったわけだから・・・・・・あぁ、やっぱり相当重傷だな、これは」

 見ると、須藤は全身から血を流して地面に血溜りを作っていた。

「・・・・・・そう・・・思うなら・・・・・治療魔法かけてくれ・・・・・・もう・・・魔力が・・・・・・ない・・・・・・」

 辛うじて意識の残っていた須藤が息も絶え絶えに言った。多分、朧月の方が治癒力が高そうだが、あまりそのままにしておくのもよくないのでとりあえず『リヘイル』をかけて傷を塞いでおく、

「助かるぜ・・・・・・。それにしても、漆黒爆砕剣でも傷ひとつ与えられない・・・・・・というか、隙を狙った普通の薙ぎの方がダメージを与えられているのがいやだぜ」

「回復が早いな、もう普通に喋れるか。いや、別に悪くなかったぞ、さっきの技。『暗黒剣(ダークネスブレード)』の出力を細大にした状態であらゆる物を砕く強烈な一撃を繰り出す。単純だが、それが正解だ。無駄に魅せるような技を使う奴もいるが、世の中単純な技の方が強いものが多いからな。そもそも、俺の技もお前と同じで出力を上げて剣撃を繰り出しただけだからな。まぁ、その出力の差が命運を分けたわけだ」

「はぁ、やっぱり出力の差かよ。――ったく、やっぱり俺はあんたらの強さには届かないか」

 須藤が悔しそうに俯く。

「たしかに、今のお前では俺たちには届かないかもしれないが、素質だけでいえばおそらく限りなく白坂たちに近いものを持っている。あとは日々の修行の成果だ。周りに強い奴がいないから、修行の効率はあまり高くはないだろうが、諦めずに修行を積め。お前なら、時間はかかるだろうが必ず俺たちに近づける」

俺はそう須藤に伝えてその場を後にする。さて、疲れたな。今日はもう部屋で休むとするか・・・・・・。

 

 

 

 目覚ましがなるより早く意識が覚醒する。時刻は早朝5時、季節は初春のためまだ外はまだ明るくはない。

俺は身を起こして周囲に置いてあった時計のアラームを切り、ベッドから降りて旅行用の鞄から服を取り出す。どうやら部屋につくなりすぐ寝てしまったようで、須藤との試合中に着ていた服のままだった。服は所々破れているし、血で赤く染まっているため、もう着れそうもない。

 とりあえず取り出した服を持って部屋を出る。昨夜は風呂に入り忘れているため、風呂に入るためである。部屋に備わっている風呂もあるが、生憎お湯を溜めていない。そういうわけで、今回は大浴場に行くことになる。

 大浴場までの道を進む途中、施設の訓練場を覗くといつものように白坂と斎藤が実践形式の稽古をしていた。当然、あの二人でいえば白坂の方が実力が上であるため、必然的に白坂が斎藤に稽古をつけているような感じにもなっているが、白坂としても実践形式はいい修行になるのだろう。日々成長していっているのがよくわかる。まぁ、白坂の方はもともと相当強かったのだが。

 訓練場を過ぎて大浴場まで辿り着き、男湯の脱衣所に入るとやはり誰もいない・・・・・・と思ったのだが、朝早いにも関わらず橘がいた。橘もちょうど着いたばかりの様子で、まだ服を着ていた。

「あ、日之影もお風呂ですか?昨日は何かと疲れたようだし、シャワーも浴びないで寝たんじゃないのかな?」

「そうだ。本当に昨日は疲れたからな。部屋に入るなり、即行で寝てしまったよ」

「あははは」

「あはははは」

 橘が苦笑する。俺もつられて笑ってしまう。前回の戦争の時は、俺が笑うことなんてほとんどなかったのにな。こいつらのおかげなのかもしれない。

 俺と橘は服を脱いで籠に入れて腰にタオルを巻いて浴場に入る。中は結構広くて、サウナやバス、水風呂などもしっかりと備え付けられていた。

「広いですね。僕たちの研究所の浴場もこれくらいだといいんですけどね」

「うちの研究所の浴場は女湯は広いぞ?なにせ、あっちに所属しているのは女の子が多いからな」

「そうですね。特に来夢ちゃんと静音ちゃんは大きなお風呂が大好きみたいですからね」

「そうだな。いい機会だ、帰ったら男湯も大きく改装するか。結構男の面子も増えてきていることだしな」

 身体を洗いながら俺と橘は話を弾ませていく。戦いが始まってからずっと橘とは普通の会話を交わすことがなかった。久しぶりに友人とする会話は二人とも楽しいものがあった。

 身体を洗い終わると俺と橘は少し奥にある外の景色が覗ける広めの湯船に浸かった。

「いい湯ですね。疲れがとれますよ。それでいて景色がいい」

 窓から外を見てみると、だいぶ明るくなってきたのか海梨(うみなし)市の綺麗な景色が見えた。この研究所はちょっとした丘の上に建てられているので、海や山々に囲まれている町並みを一望することができた。

「たまにはこういうのもいいですね。この戦いが終わったら、みんなで旅行にでも行きませんか?」

「あぁ、この世界が平和になったら、みんなで世界中を旅しようか。金が足りないから野宿することになるだろうけどな」

「あははは、野宿ですか。それなら僕としては日之影のいた世界を旅してみたいな」

「はぁ?」

 橘の苦笑しながら言った言葉に、俺は間抜けな声を出してしまった。

「冗談だよ。こっちと違って、向こうは危険な魔物がたくさんいるんでしょ?まぁ、魔物くらい別に問題はないだろうけど、世界を行き来するには相当な魔力を消耗する始祖魔法クラスの魔法が必要なんだろうし、そう簡単に行けるわけでもないからね。でも、たぶんみんな一度は君のいた世界に行ってみたいと思っているはずだよ。蒼空寺はそういうことには興味はないかもしれないけど」

「うーん、それならどうするかな。俺単体で移動する分には簡単なんだが、あれだけの人数を移動させるとすると、俺だけの力じゃ無理だな」

「そうですか、じゃあ仕方ないな」

「そうだな。―――っと、そろそろ上がるか。今夜は嫌な予感がする、気をつけろよ」

「分かってます。日之影の方こそ、油断はしないでください」

 俺と橘はそれ以降言葉を交わさないで、風呂から上がり服を着たあと、入り口を出たところで分かれた。

 ところで、朝食はどういう風になってるんだ?とりあえず食堂に行ってみるか。

 食堂に行ってみるとすでに何名かここの所員が朝食を取っていた。辺りを見渡すと、奥の方で朧月がちょうど朝食を食べ始めるところだったので御一緒させてもらうことにした。

「朧月、あの後須藤の様子はどうだ?おそらくお前が治療したんだろう?」

「えっ!?あ、はい。わ、私が治療をしましたが、き、傷のほうはすでに日之影さんの『リヘイル』でほとんど塞がっていましたので私は体力のほうだけ回復させました」

 急に話し掛けたせいか、朧月は緊張していて所々で言葉が詰まっていた。

「そう緊張しなくていいよ。これから一緒に戦う仲間だろ?」

「そ・・・・・・そうですね。すみません、私、自分よりランクが上の人と話をすることがあまり無くて・・・・・・。雅也さんは私よりランクは上なんですけど、私と彼は幼馴染なので普通にお話することができるんですけど。それ以外の人だと緊張しちゃって、つい最近この街を訪れたSランクの方とお会いしたときにもうまく喋れなくて・・・・・・」

 朧月は少し顔を赤らめながら言った。なるほど、そういうことか。となると朧月は須藤のことが好きなようだな。うむ、人間、恋はするものだ。といっても、来夢ちゃんあたりはもう少しまともな恋をしたほうがいいと思うが。っと、Sランク?

「そのSランクっていったい誰なんだ?」

「えっと・・・・・・たしか女性の方で、『高条(こうじょう)沙耶菜(さやな)』って名前の方だったと思うんですけど」

「『高条沙耶菜』・・・・・・だって?最近行方が分からないと思ったらこの街に来てたのか。はぁ、それならそのまま留まっててくれればいいものを・・・・・・」

 俺は大きく息を吸い込んで盛大にため息をついた。それを見た朧月はきょとんとした表情で、

「あの・・・・・・お知り合い・・・・・ですか?」

 と聞いてきた。あぁ、知ってるも何もそいつは・・・・・・。

「『高条沙耶菜』はうちの研究所に所属している『高条罫菜(けいな)』の姉なんだよ。言っておくがあいつは例外だ、緊張どころか立ち竦んでもいい。ランクこそSランクだがあいつの戦闘能力は異常だ。須藤の『闘気と魔力の合成(オーラ・マジック・オブ・コンポジション)』は知ってるだろ?あいつはあれを使った上で『崩壊する世界(ワールド・カタストロフィ)』なんて使う奴だ。五年前に向こうの世界に来たあいつと冗談で戦ったときは正直殺されるかと思ったぞ?」

 俺の話を聞いた朧月は見て取れるほどに顔を青ざめていた。『崩壊する世界(ワールド・カタストロフィ)』・・・・・・始祖魔法と言う、この世界と俺のいた世界で共通に原初の魔法として認められた魔法の一つで、『闘気と魔力の合成(オーラ・マジック・オブ・コンポジション)』を使い、術者の命までも魔力に換えた最大出力で放てば、その名の通り世界を崩壊させるほどの威力を持つ最強の崩壊魔法。それを命も懸けてないし最大出力でもないとはいえ、それ放つあいつの気は狂っているとしか思えない。大体、あの魔法は強力すぎるが故に、もう使い手は存在していなかったはずなんだが、いったいどこでどうやって会得したんだか。

「それにしても、どうしてこの世界の住人は強いんだろうな。いや、別に俺のいた世界の住人が弱いといっているわけじゃないんだが、あっちの世界にはもう須藤の『消滅の力(イクスティンクション)』や『崩壊する世界(ワールド・カタストロフィ)』を使えるような奴はいないんだ。だからこそ、俺たち騎士と呼ばれるような例外人種が生まれてしまったわけなんだが」

「雅也さんって、やっぱりもっと強くなれるんでしょうか?」

「昨日須藤本人にも言ったが、あいつの潜在能力は非常に高い。潜在能力だけでランクをつけるならS+はあるだろうな。そもそも『消滅の力(イクスティンクション)』を使える時点で彼にはランクをつけられない。そうだな、種類的には高条沙耶菜と同じ系統に分けられるな」

「えっ!?雅也さんと彼女が同じレベルなんですか!??」

「あくまで潜在能力だけでランクをつけたら・・・・・・だ。現状の須藤では全力を出してもSランクには届かない。一時的に同等の力は発揮できるだろうが、昨日の俺との試合のようにすぐガス欠になるのがオチだ」

「そうですか・・・・・・」

 朧月は少し表情を曇らせながら俯いた。うむ、やはり朧月は須藤のことが好きなんだろう。――っと、なんで俺がこんなこと考えてるんだ?斎藤の影響か・・・・・・。

「――あ、おはようございます、日之影さん。昨日はお疲れ様でした」

 横の方で声がしたので振り向いてみると、サンドイッチとミルクをのせたおぼんを持った一之瀬が立っていた。座る席を探している途中だったようなので、俺の隣の席に座るように誘うと、俺に一言「ありがとうございます」と言ってから座った。

「一之瀬、お前、昨日は白坂と手合わせできたのか?あの後すぐに部屋に戻って寝てしまったから気になるんだが・・・・・・。特に俺と須藤で派手に会場ぶっ壊してしまっただろ?」

「あぁ、その事でしたらご心配なく。第三フィールドはしばらく使い物にならないくらいボロボロになってしまいましたが、特に問題はありません。白坂さんとは第二フィールドも方でお手合わせをさせていただきましたので」

 白坂さん、本当に強くてまったく手も足も出ませんでしたよ。と、苦笑しながら言う一之瀬。聞くところによると、白坂に本気で挑んでみたが、一撃も有効打を入れることができなかったらしい。白坂曰く、「シンの攻撃は読みやすい。技それぞれが別々の特徴を持った攻撃なのはいいが、相手に読まれては意味がない」そうだ。それで白坂の奴はほとんど同じ動作だがまったく性質の違う技を見せて、手合わせは終わったらしい。

「いやぁー、本当にすごい人です。初撃は受け流すことができたんですけど、次の攻撃が読めませんでしたよ」

 一之瀬はまるで子供がヒーロー物の特撮を見ておおはしゃぎしているかのようにしている。白坂、やっぱり人に教えるのが得意だな。まぁ、だからこそ斎藤の鍛錬を見てやるように指示したわけなんだが。

「一之瀬くん、私そろそろ行くね。雅也さんを起こしにいかないと・・・・・・」

「んっ?あぁ、そういえばもう時間だね。礼奈ちゃんいってらっしゃい」

「それじゃ日之影さん、お先に失礼します」

 朧月は俺に向かって深々と頭を下げると急いで食堂を出て行った。

「須藤ってまさか毎日朧月に起こしてもらっているのか?」

「はい。雅也は朝が苦手なんです。礼奈ちゃんが起こしにいかなかったらお昼ぐらいまでは寝てると思いますよ」

 一之瀬はとても楽しそうに須藤が朝弱いことを話す。毎日朧月に起こしてもらっている・・・・・・か、ベタだなぁ。ん?もしかして・・・・・・。

「そこまでしてもらっているってことは須藤と朧月は付き合ってるんだよな?」

「いえ、二人ともまだ付き合ってませんよ。雅也があまりにも鈍感すぎて、礼奈ちゃんの気持ちに気づいてないんですよねぇ」

 うっ・・・・・・べ・・・・・・ベタ過ぎないか・・・・・・?いくらなんでもそこまでしてもらっておいて気づかない奴なんて・・・・・・・・・・・・いっぱいいたな・・・・・・。

「・・・・・・まぁ・・・いいか。それじゃ俺もそろそろ失礼させてもらう。夜まで見回りをしないといけないからな」

「あ〜そうでしたね。僕もそろそろ準備しないといけないので・・・・・・翔さん、今夜はがんばりましょうね!」

「あぁ、こちらこそよろしく頼むよ」

 それでは、と一礼してから去っていく一之瀬が入り口を出るのを見届ける。しばらくしてから俺も食堂を出る。そして一旦部屋に戻って外出の準備を済ませ、すでに見回りに出ているだろう蒼空寺に現状を聞くために彼の携帯電話に電話をかける。三回ほど発信音がしたところで蒼空寺が電話に出た。現在位置は海梨市の北東部らしい。特に異常はないとのことだったので、長電話をする気はなかったため電話を切る。

「―――さて・・・・・・と。まぁ夜まで何も起きないだろうが、一応見回りにいくか」

 とりあえず蒼空寺のいる場所とは反対の南西部にいってみることにする。さて、昼飯はどうするかな・・・・・・。

 

 

 

 結局のところ昼間に魔族たちが行動を起こすことはなかった。南西部に行った後、とりあえず街のほとんどの場所を見回ったが怪しい魔力は感知できなかった。気になる昼飯だが、残念なことにどこの飲食店もあまり興味をそそる物がなかったのでコンビニで適当におにぎりを買って食べた。

「日之影。橘と蒼空寺、それと白坂の班はすでに現地で準備もオーケーだそうだ」

 須藤が携帯電話で各班の状況を確認し、それを俺に伝える。ふむ、斎藤の奴まだ準備が出来てないのか。

「斎藤に伝達。早急に準備を終わらせるように。――そろそろ再封印の決行時刻だ。おそらく魔族が仕掛けてくるだろうから各員警戒を怠らないように」

「「「「「了解ッ!!」」」」」

 現時刻午後六時五十分。夏のため陽が落ちるのは遅い・・・・・・日の入りまであと数十分といったところか。さて、どうやって仕掛けてくる。ラクフェス・・・・・・。

「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」」

 ――ズドーーンッ!!――

「・・・・・・なっ、何だいきなり・・・・・・」

 突然空から何者かが俺の真上に落ちてきて俺を下敷きにする。声からして女の子のようだが、俺がクッションになったおかげか怪我はないようだ。――っとちょっとまて、今の声は・・・・・・。

「―――って、何で来夢に静音に罫奈が空から落ちてくるんだよッ!!」

 俺の上に落ちてきた人物たちは俺が怒鳴りつけるなりすぐさま俺から降りて服についた埃を落とし、

「――あっ!こんなところにいるなんて奇遇だね、日之影くん」

 などとあたかも偶然ここで出会ったかのように振舞う三人の中で一番背が低くピンク色の髪をした少女は朝倉来夢。斎藤が好きな女の子の一人で同じ研究所所属のA−ランクの魔法使いだ。

「奇遇じゃない。というか空から人間が降ってくるなんて事はまずない。大方、テレポーターを使ったところ、ここら辺に着くはずがなぜか位置設定をミスって空中に出てしまったってところだろ?」

「あはははっ、すごい!大正解だよ!!」

「そうか。で、何でお前らがここに来たんだ?たしか他のメンバーは研究所で待機だったはずだが・・・・・・」

「あっ!!そ・・・・・・そうなんだよ!えっと、あ・・・う・・・・・・そう、水梨・・・・・・じゃなかった、海鳴・・・・・でもない。あぁ!えっと、その・・・・・・」

「―――海梨市全体を覆う魔力の量が異常な数値を記録しています。初めは魔獣の封印が解けかけているために起こった現象なのかと思いましたが、違うんです。いえ、正確にはそれも影響しているのですが、それ以外にこの街を覆っている別種の魔力がありました。その魔力のパターンを今までの戦闘データと照合させた結果、四天王ラクフェスの魔力であることがわかりました」

 俺に問われてここに来た理由を思い出した来夢だったが、慌てていたために呂律が回らないため、隣の水色の髪をした少女、綾島静音が代わって説明をしてくれた。

「それで、そのことを伝えに私たちが来たってこと。あと微力ながら戦力増強っていう理由もあるけどね」

 黒い長髪の少女・・・・・・にしてはちょっと発育のいい高条罫奈が静音の言葉に付け加える。

「封印が解ける前兆で周囲の魔力が増大していると思っていたんだが、ラクフェスの魔力・・・・・・か。となるとまずいな、俺はあいつと直接戦ったことがない」

「直接戦ったことがない・・・・・・ってことは、ラクフェスの能力がわからないってことですか?」

 静音がとても不安な表情で俺に問い掛ける。

「あぁ、ラクフェスの能力に関してはよく知らないんだ。ラクフェス自身が先頭に立って戦うなんてことはほとんどなかったからな。現時点でわかっていることはあいつが自身を含めた四天王全員を復活させたことぐらいだ」

「そうですか。では早急に全部隊に連絡してください。ラクフェスたちは―――」

「―――ちぃ、全員障壁展開ッ!!押しつぶされるぞ!!」

 静音の言葉を遮ってその場にる全員に聞こえるように大声で指示を出す。だが、全員が障壁を展開することは不可能だったため、俺が広範囲に魔力障壁を展開する。

 俺が障壁を張り終わったところで辺り一面に超強力な重圧がかかる。障壁で緩和しているとはいえ、まともに立っていられるのは須藤たち三名と来夢たち三名、そして俺の七名だけだった。ほかのメンバーは全員地面に手と膝を突いて押しつぶされないようにするのがやっとだ。

「よく私の重力魔法を感知できたな。さすがは魔を継ぐ騎士といったところか、ショウ=シャインハルト。だが、障壁を張ったところでお仲間のほとんどはまともに立っていられないようだな」

 空間が歪み、障壁の中であるにもかかわらず俺たちの前にラクフェスが姿を現した。ラクフェスに続いて魔族と魔物の群れが姿を現す。数は・・・・・・三十ってところか。

「ちぃ・・・魔力遮断用の結界障壁じゃ魔族の侵入は防げない」

 まずいな。このまま結界を維持し続けて戦うのは分が悪い。このままだと押しつぶされる奴も出てくるだろうから来夢と静音、罫奈には結界の維持に専念してもらう必要がある。魔物と低級魔族の相手は須藤たちに任せるとして、ラクフェスは・・・・・・なんとか俺が相手をするか。

「来夢たちは結界を強化維持してくれ。須藤たちはラクフェス以外の敵を殲滅。俺がラクフェスを食い止める」

「ちょっと待てッ!いくらなんでもこの状態で四天王と一人で戦うなんて、騎士のあんたでも分が悪いはずだ!」

 俺以外で一番実力のある須藤が、実力があるからこそ俺の状況がわかっているのか俺を止めようとする。だが、俺はそんなに弱くない。

「大丈夫だ。少しくらい魔力に制限がかかったところで問題はない。ついでに、この程度の重圧なら・・・・・・いける。お前は自分に課せられた任務にだけ集中しろ」

「・・・・・・了解」

 須藤が朧月と一之瀬を連れて魔物たちの駆除に向かう。俺はそれを見届けた後、腰に下げている剣を鞘から抜き、その刃をラクフェスに向ける。

「―――さぁ、もう一度無へと還れ、ラクフェスッ!!」

 最低限の魔力障壁を展開させて全力で駆ける。だが、思った以上に重圧で制限をかけられているようで、昨日の須藤との試合よりもスピードが出ていない。

 間合いに入ってすぐに剣を振るう。ラクフェスはまだ得物を取り出していない。―――いけるッ!!

「――あまい」

 キィィィンという甲高い金属音が鳴り響く。俺の剣はラクフェスの手に握られている剣で受け止められていた。唖然としている中、ラクフェスが剣を横薙ぎに振るったため、後ろに跳んで一度間合いを取り直す。

「一瞬で武器を取り出した?」

「フフフッ、舐めてもらっては困る。これでも四天王を束ねる身・・・・・・今のはあえて外した。その程度の速度では次は避けられんぞ?」

 今度はラクフェスから仕掛けてくる。高速で繰り出される剣撃をギリギリのところで裁いて何とか反撃できる隙を伺う。

「――ッ!?」

 まだ攻撃を裁いている最中だというのにも関わらず、目前にいるラクフェスの気配が後ろに移動したように感じた。最後の攻撃を受け流してすぐに振り向き様に横に跳ぶ。しかし、突然腹部に痛みが生じた。見ると刃物で斬られた痕があり、出血していた。

どういうことだ?いくらラクフェスの動きが速くても見切れないほどの動きじゃなかった。それなのに・・・・・・障壁ごと斬られた。

「やはりお前では私の相手はできないようだな。私は他の連中と違って完全な力を出すことができる。それに対しお前はまだ完全には力が戻っていないと見える。そのような状態で私に勝てるとでも思ったか?私と互角に戦いたければ『閃光のソードダンサー』白坂藤次の本気と同じだけの速度をもってしなければな」

 ラクフェスは不敵な笑みを浮かべながら言った。白坂の本気?ふざけるな。いくらなんでもこの重圧では音速戦闘なんてできるものか。

 俺はラクフェスの行動に注意しながら須藤たちの状況を確認する。それほど敵が強くないのか、すでに数は半数ほどになっていた。――仕方ない、駆除が終わったら、すぐにこの場からみんなを連れて脱出してもらうか。

「さ・・・・・・て、そろそろ時間なのでな。他の結界も破壊されたようだし、ここの結界も破壊させてもらおうか」

 ラクフェスが俺たちの後方に設置しておいた四角い箱のような形の機械でできている結界発生装置の方へと歩みだす。だが、そう簡単に行かせるかッ!!

「はあぁぁぁぁぁぁっ!!」

「むっ?」

 ラクフェスを止めるために間合いに踏み込み剣を幾度も振るう。しかし、その鋼の刃はラクフェスに掠りもしない。俺の剣はただ虚空を薙ぐだけだ。

 何度も剣の振るっていると再びラクフェスの気配が背後に移る。今度は前方に飛び込むように跳んでみようとしたが、行動よりも先に背中に蹴られたような痛みが走り前に飛ばされる。

「さて・・・・・・と、これ以上は無駄だ。今日はお前らが目的ではない、早急に立ち去れ」

「俺たちを倒さないで魔獣だけ復活させて・・・・・・どうなるっていうんだ。魔王復活と何か関係があるのか?」

 俺の問いかけにラクフェスは少し考え込む。―――ちょっと待て、お前何も考えてなかったのか?

「――そうだな、魔獣自体に興味はない。ただ、同時に封印されている武器に用があるだけだ」

「武器・・・・・・だと?」

「そう、魔剣『ダークネスシエル』。『闇の空』と呼ばれる私の持っていた真の魔剣だ。この剣は名もないただの剣でね。お前の持つ『天空の壊牙』、白坂の『エクスカリバー』、斎藤の『風戒』などにはどうしても劣る。だが、あれは別だ。お前らの所有する剣やヴェイドの『エクスプロード』にも劣らぬ性能を持っている。あれと私の力が合わされば、例えお前が『魔騎化』を行ったところで到底敵いはしないだろう。クククッ」

 そういってラクフェスは他人を見下すような笑みを浮かべる。なるほど、たしかに厄介だ。俺が重圧で動きを制限されているとはいえ、ラクフェスの動きはおそらく完全な俺よりも速い。その上それに魔剣の力が加われば・・・・・・ヴェイドよりも凶悪な敵になるかもしれない。

「ではな、ショウ。次に会うときがお前らの最後だ」

 そう言ってラクフェスは結界を破壊しようと手に魔力を収束させ始める。

「くっ・・・・・・させるかッ!!」

「――うるさい、少し黙っていろ」

 立ち上がってラクフェスに斬りかかろうとしたが、一瞬で吹き飛ばされる。しかも左太腿が剣で刺し貫かれて大量に出血していた。他にも体中に切り傷ができている。

「くそ・・・・・・ぅ・・・・・・」

 力を入れようとすると激痛が走って力が入らない。どうやら筋肉断裂、骨までやられているらしい。急いで治療魔法をかけるが、このままじゃ間に合わない。

 ラクフェスが手に収束させた魔力を解き放つ。魔力は雷となって天空から装置を射抜く。直撃を受けた装置は耐え切れずに爆発を起こし、半径五メートル範囲内のものを完全に塵と化した。そして全ての結界は破壊され、封印場所を覆っていた結界も完全に消滅した。

「さて、それでは我が剣を取りにいくとするか」

「待てッ!!

 ラクフェスは俺を振り返りもせずにそのまま封印場所へと向かっていく。俺の治療魔法が完了するまであと十数秒・・・・・・もう間に合わないッ!!

「――行かせるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 魔物と魔族を駆除し終えた須藤がこちらの状況に気づいてラクフェスまで全力で駆ける。

「待てッ!すど―――」

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 須藤を止めようとしたが間に合わず、須藤がラクフェスに斬りかかる。ラクフェスは相手をする気もないのか、魔力障壁だけであしらおうとしたが、

「んっ?なるほど、『消滅の力(イクスティンクション)』か。それはさすがに困る」

 須藤の攻撃が『消滅の力(イクスティンクション)』での斬撃だと分かると魔力障壁を解除してその分の魔力を手に収束させて解き放った。解き放たれた魔力は刃となって須藤を襲い―――

「あ・・・・・・れ・・・?うそ・・・・・・だろ・・・・・・・・・・・・」

 鮮血を撒き散らしながら須藤が地面に倒れこむ。魔力の刃は須藤の体を貫いていた。